別れ話

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大きな欠伸をして花壇の花達を屈みながら茫然と眺める。隣の葵は終始穏やかな表情で蛇口から繋がるシャワーヘッド付きのホースで水をあげていた。 緩やかに円を描くように舞う水しぶき。頬を掠めるシャワーの霧が陽射しで体温が上昇した身体には心地よかった。 「亨くん·····やっぱり眠たいですよね。僕に付き合わせてしまって·····すみません」 時刻は朝の8時ちょっと前、葵の一緒にいるのは楽しいけど、怠けた身体は正直なのか、眠さには勝てなくて思わず欠伸が出てしまう。 「大丈夫。気にしないでよ。俺が来たくて来てるから·····それに怠けた身体には丁度いいよ」 満面の笑顔で葵のことを見上げると葵の顔は瞬く間に紅潮してはシャワーベッドの水を止め、両手でギュッと握っていた。動揺しているのが表情や行動に出ていて面白いと同時に胸が擽ったいような堪らない気持ちになる。 「この花壇って葵が考えて植えたの?」 「はい·····僕は美化委員の花壇係なので·····」 葵が教えてくれた、ベゴニアだったか·····奥からから黄色、赤、オレンジ、白、紫の順に並べられてる。もちろん花の事が詳しいのも当然のことだと思うが、花壇の花を並べる作業は美的センスも問われるような気がした。 配色とか花の形やバランス、花束を作れるということは葵にはその感覚が養われているんだと伺えて感心する。 「凄いなー····」 「そんなことないです·····。ただ僕は実家が花屋で植物が大好きなだけで·····」 「でも、すげぇ綺麗だよ。ずっと眺めていたくなる」 花びらの先から落ちる水滴で揺れる花たちが、葵が注いだ愛情によって喜んでいるように見えた。それを不本意に潰されていたあの時を思い出すと胸が痛む。葵だって背中を押されたからとはいえ自らの膝で潰してしまったことを後悔していたんだろうな·····。 膝においた腕に顎を乗っけては、右手を伸ばし、目線の先の紫色のベゴニアの花びらを指で優しく触れてみると「亨くんにそう言って貰えて、嬉しいです」と控えめながらも声音では嬉々としているようだった。 「花屋かー·····行ってみたいな。手伝ってるんでしょ?葵が仕事してる姿見てみたいかも」 花屋で働く葵が自然と想像でき、きっと葵の母親も優しい人なような気がした。 葵が慣れ親しんで来た場所を純粋に知りたい·····。
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