別れ話

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そんな思いから何気なく提案してみたが、葵は戸惑っているようだった。暫く考え込み、顔をあげると「それは·····やっぱり恥ずかしいのでダメです·····」とやんわりと断られてしまった。 「そっかー·····残念」 少し期待をしていただけにショックではあったが、しつこく咎めるのも違う気がして此処は大人しく身を引く。何時もなら自分に好意を寄せている女性の思考回路を詠むことくらい容易く出来ていたが、葵は全く詠めない。 完全に消極的な方だし、一気に距離を詰めようとすると逆に引かれてしまう。 だけどそれが楽しい·····。 「葵は卒業したらお店継ぐの?」 「はい、学校に通ってもっと専門的なこと勉強するつもりです。いずれ後を継いで、母の大切なお店、お花達はどうしても残したいんです」 表情を綻ばせながら話す葵の姿が眩しく輝いてみえる。年下の俺にも敬語を使ってくる葵にすっかり忘れてしまいそうになるが葵は丁度節目の年になる。5月も下旬に差し掛かるとはいえども、あと数ヶ月で模試は始まるし自分の進路を本格的に考えなければならない時期。 何となく進路か決まらなくてとりあえず大学へ進学するものが多数の中、すでに明確な将来を見据えている葵に好感を持てた。 「亨くんは·····将来決まってるんですか?」 「俺·····?うーん、なんだろう·····まだ決まってないかな。葵は偉いね」 葵に問われて初めて考えてみるが、何も浮かばなかった。自分も来年には葵と同じ立場になる·····成り行きで過ごしてきたけど、そろそろ遊んでばかりもいられない。 自分はこのまま何も目標もなく、結局ギリギリまで悩んだ挙句にとりあえずで大学へと進学する奴らと一緒のような気がした。 「そんなことないです·····亨くんの好きな物は何ですか·····?」 「好きなもの·····映画かな」 葵のように熱心な訳では無いが、問われて真っ先に浮かんできたのはそれだった。邦画洋画、B級問わず、映画鑑賞は好き。だからレンタルDVDショップでアルバイトをしている。ふと誰かに自分のことを話すのは初めてな気がした。今までの彼女(ひと)は自分の事が好きだと言われて付き合ったが自分の好みなど聞かれたことがなかったし、話す必要性もなかった。 デートの映画だって自分は恋愛ものよりかは アクションやアドベンチャーの方が好きだが全て彼女の好みに合わせる。レディファーストとよく言うように、男が女に合わせるものだと信じて疑わないし、彼女たちは俺に興味があるんじゃなくて、あくまで理想の大人しくて格好良い彼氏を持っている自分に興味があるのだと分かっていたからだ。
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