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普段ならスルーしている。
こんなの関わったって面倒臭いだけ。
そのはずだったが、亨は無意識に追いかけては男の右手首を掴んで引き止めていた。
男は突然掴まれて驚いたのか、体をビクっと震わせながら横目でこちらを見ている。
「ぶっかってしまって、すみません 」
此方には一切目を合わせずに俯いたまま男が喋る。まるでリストラを言い渡されたサラリーマンのよう。
「服濡れてるけど、どうすんの 」
「そのまま帰ります 」
男は聞こえるか聞こえないかの声量で言う。
身長は然程亨と変わらないはずなのに肩を落としているせいか、酷く小さく見えた。
「そのまま帰ったら風邪ひくでしょ 」
「僕は大丈夫なので・・・すみません 」
此方が気を遣っても素っ気のなく返してくる男に何も返す言葉もなく掴んだ手を放す。
男は軽く会釈すると靴箱に向かっては靴を脱ぎ始めた。
金髪のやつらに水浸しにされる前のニコニコしていた笑顔が嘘のように気を落ちした雰囲伝わってくる姿。
男が大丈夫だと言っているのだからそれ以上詮索する必要なんてない。
そう思って門の方へと歩き出そうとしていたが、歩いているうちに何か後ろめたさを感じて、男が入っていった下駄箱の方へと走り出していた。
幸いにも正気を無くしたようなずぶ濡れの男は、まだ外靴を下駄箱に閉まっているところだった。
亨は強引に男の手首を掴んでは外靴を荒々しく脱ぎ捨て、来賓用のスリッパを二人分取り出すと男に履かせ、その勢いで男の手を引く。
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