第一章 ここは新横浜・タカハマ屋

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「今日は、来ないのか……」  そう一言つぶやいてから、タカハマ屋のオジサンは駅の方をそれとなく気にしつつも、昔ながらのケースに、おむすびをきちんと並べていた。  新横浜南口界隈に、いつもの朝が始まろうとしていた。  スーツ姿がちらりと目に入るたびに、『彼』なのではないかと身を乗り出し、また店に引っこむ、を繰り返している。  たまにしか寄らない人だったが、必ずいつも「オカカとコンブ」と言う。  何度かに一回は、カップみそ汁を一つ、ついでに買っていく。  最後に必ず「レシートをください」と言う。まあ、慣れて来た頃にはオジサンも自然に渡して、彼も自然に受け取っていたのだが。  なぜかははっきり理由が知れないが、オジサンはいつもその客を待ちわびていた。
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