第117話 サムジャ、ダエーワの分体を追う

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第117話 サムジャ、ダエーワの分体を追う

『GarurururuxuuuU!』  ダエーワが四体に分かれた。しかも翼の生えた一つ目が飛び立ち明らかにセイラとパピィが逃げた方向に向かってしまった。  しかも角持ちの大型の獣も飛んでいった分体を追いかけるように駆け出した。 「お前はここでやられていろ! 居合忍法・抜刀――」  獣型のダエーワを迎え撃つべく構えをとったが、後ろから圧を感じ大量の腕が伸びてくる。 「クソッ!」    雨のように降り注ぐ拳の連打を避けつつも抜刀影分身で腕を切り払っていく。獣に向けt術を行使するタイミングは完全に失われていた。 「チッ、獣が!」 「シノ! とっとと追え! ここは私に任せろ!」 「もちろん私も残ってやってやるわ!」  マスカとルンの声が聞こえた。正面には後二体ダエーワの分体が残っている。  マスカとルンがそれを引き受けてくれるようだ。  既に獣は速度を上げて視界から消え去りつつある。迷っている余裕はない。 「――わかった。頼りにしてる。でも無理はしないでくれ!」 「ふん。誰に物を言っている。冒険者としては私の方がずっと先輩だ」 「わ、私だって一応はね!」  あぁ。たしかにそうだったな。レベル一つとってもマスカの方が俺より上だ。ルンも転生後でみたら俺より先輩だ。  とにかく、そうと決まれば、俺は影走りの術を発動し加速し、あの二体を追いかけた。 ◇◆◇ 「ルン。お前も厳しかったら無理せず逃げろ」 「ば、馬鹿言わないでよ。仲間をおいて一人だけなんて逃げられるわけないでしょう!」  マスカが心配そうな声で逃げるようルンに促した。しかしルンは一歩たりとも引く気はないようだ。 「はは、全く可愛らしい顔してたくましいなお嬢ちゃん」 「ん?」 「あ、そういえば。一人いたんだったね」  だれだっけか? というような声をマスカが上げ、ルンが思い出したように彼を見た。 「酷いな! たく、とにかく俺は双斧士のアクロス。レベルは5だ」  アクロスが自己紹介した。戦いに於いて仲間の情報は大事だ。 「レベル5か。それで大丈夫? あまり無理しないでね」 「お前は3だろう」  心配そうに話しかけるルンだがすぐにマスカからのツッコミが入った。確かにレベルで言えばルンの方が少ない。 「いい加減気を引き締めろ。来るぞ!」 『ブホォオォオォォォォォォォォオォオオ!』  マスカが注意を呼びかけた瞬間、膨張したような肉体のダエーワの全身から紫色の液体が染み出してきた。  液体はダエーワを離れ三人向けて発射される。 「風精霊の守り!」  シャーマンの仮面を被ったマスカが精霊の力を行使。汚れた紫色の液体から風が守ってくれた。 「ありがとうマスカ。やぁあああ!」  お礼を口にしながらも、ルンが杖を突き出し火球でダエーワに攻撃する。火の刻印を自らに施したようだ。 『グウウウグウウァアアアァア』  火球の連打を受けダエーワの分体が苦しげに呻いた。それにルンが注目する。 「あ、あいつ火を嫌がってるぽいよ!」 「本当か。だったら嬢ちゃん俺にもその刻印を頼む!」 「待て、敵はそいつだけじゃないぞ!」  アクロスがルンに刻印を願い、それに答えようとするルンだったが、その場には多腕の分体も存在し、二人めがけて大量の腕が襲いかかってくるのだった―― ◇◆◇ 「パピィちゃん重くない?」 「アンッ!」  セイラはパピィに跨る形で町を疾駆していた。パピィはまだまだ子犬だが影を操作して成長したように大きくなることが可能だった。  ルンがパピィに乗れたのも影の力によるところが大きい。  そしてルンの質問には、平気だよ~と言った笑顔で返していた。 「でも、皆大丈夫かな……」 「……ワン」    ルンの心配する気持ちもパピィにはわかっていた。だが、今はそれどころじゃないこともパピィはわかっていた。  何かが近づいてきている。そしてそれは間違いなくあの邪神の眷属だ。 「ワンワン!」 「え? パピィちゃんどうしたの?」  慌てたように加速するパピィにルンが心配そうに声をかけた。パピィは焦っていた。このままでは間違いなく――そう思った直後だった。屋根の壊れる音と共に巨大な影が横から飛び込みパピィの正面に降り立った。 「グルルルルルゥウウ」 「え? この獣ってまさか――」  パピィが唸りセイラも不安そうな顔を見せていた。そして更に翼の生えたダエーワの分体も上空から近づきつつあった――
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