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第118話 分体の長所と短所
多腕のダエーワの腕がルンとアクロスへと襲いかかった。マスカが警告を発するがもう腕は目の前まで迫っている。
「畜生が!」
「キャッ!」
アクロスがルンの襟を掴みそのまま横にスライドした。よく見ると投げた斧の上に乗っていた。
「なにそれ器用!?」
「俺のスキル投斧飛脚だ!」
どうやら自らが投げた斧に乗るというスキルを持っていたようだ。そのおかげで大量の腕の攻撃からは逃げられた。
一方でマスカには紫色のドロドロした粘液が迫ってきていた。
「――火男の仮面」
マスカが面を変えた。それを見たルンがぎょっとした顔を見せる。
「ちょ! マスカ何フザケてるのよ!」
怒ったようにルンが叫んだ。マスカがつけ直した面は口の部分が妙に曲がっていて筒のようになっていた。愉快な顔をした面でもある。
「別にフザケてなどいない」
ルンに答えた後、マスカの口から火が吹き出され迫る粘液が全て燃やし尽くされた。
「おお! その仮面魔導具か何かか?」
「魔導具というかマスカは何か仮面の力で戦う天職なのよ」
ルンが答えるとなるほどとアクロスが感心した。
「て、言ってる場合じゃない。また腕が迫ってやがるぜ!」
「あぁもう! 力の刻印!」
ルンがアクロスに刻印を施しつつなんとか腕から逃げる。そのうえで火球をぶつけてみたが腕には全く効き目がなかった。
「ルン。お前の火はこっちの化物に有効だ」
「確かにそれっぽいけど」
「それとわかったことがある」
ルンが膨張した醜い化け物に目を向けるとマスカがひょっとこの仮面を揺らしながら思いついたことを口にする。
「どうでもいいけどその仮面だと何かしまらないわね」
「確かにな。実は俺も笑いそうになるのこらえてた」
「そこは慣れろ」
腕を組み火男の仮面をで二体の化物を交互に見てマスカは話を続けた。
「この化物。分裂したからか長所と短所がはっきりとわかれている」
「長所と、短所?」
ルンが怪訝そうに呟いた。アクロスも思案顔を見せている。
「先ずあの瘴気を発している奴はわかりやすし。攻撃は瘴気を絡めた物だけ。そして弱点は火だ」
「それは、たしかにわかりやすいわね」
「火はよく効いていたしな」
これにはルンもアクロスも納得なようだ。
「だけど、あの多腕はどうなんだ?」
「よく見てればわかる。あいつはさっきから殆ど移動していない。伸ばした腕だけで攻撃を続けている」
マスカが言った直後腕と瘴気の塊が飛んできた。
瘴気の塊はマスカの火で燃やされた。その勢いのまま腕にも火を浴びせると少しだけ動きが軌道が逸れた。
「マスカの火ならあっちにも少しは効くのね!」
軌道がそれたおかげでルンもアクロスも攻撃から逃れることが出来た。同時に多腕の化物に注目し全く動いていないことを確認した。
「本当。動かないわね」
「あぁ。そして瘴気を扱う方も決して動きは速くない。多腕の方よりは動いているがノロマだ。私の考えでは機動性に関してはあの獣型と翼の生えた方に殆ど持っていかれてるんだろう」
獣も翼の生えたダエーワもセイラを追いかけるという目的があるからか移動が速かった。逆にこっちは足止め重視なのか動きは鈍重である。
「こっちの二体は動きこそ遅いがどちらも攻撃範囲は広い。ぐずぐず付き合っていても疲弊するだけだ。ならさっさと本体を潰した方がいい」
動きが鈍いのであれば攻撃を当てるのは決して難しくない。そう考えたのだろう。
「よっしゃ! だったら俺はあっちの多腕の化物をやっつけてやる! 回転投斧!」
そうと決まれば、とアクロスが斧を多腕のダエーワに投げつけた。マスカの言う通り本体は全く動こうとしない。だが腕が壁になって斧を受け止めた。
「な! 俺の斧が!」
「……幾ら動かないと言っても腕があるんだ。迂闊に攻撃しても防がれるだけだ!」
マスカが火を吹き両方の化物を飲み込んだ。膨張したダエーワは苦しげだ。一方多腕は多少は怯むがあまり効いている様子はない。
「――ルンも火球でこっちを攻撃してくれ」
「わ、わかったわ!」
膨張した方のダエーワは弱点がはっきりしている分戦いやすい。一方で多腕は動かないにしてもあの腕が厄介なのに変わりはなさそうだが――
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