第120話 獣、少女、獣

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第120話 獣、少女、獣

 パピィはセイラを乗せて町を疾駆していた。シノの言いつけを守り、セイラを逃がすことだけ考えていた。    だが――途中でパピィは気がついていた。このままでは追いつかれると。 「パピィちゃん?」  反転し正面を見据えるパピィ。怪訝そうにしていたセイラだが、パピィが影を伸ばしたことで気がついた。  既に獣形態のダエーワは目の前まで迫ってきていた。足が速く、影の攻撃がすいすいと避けられる。 「アンッ!」  パピィがセイラに逃げてと訴えた。このままセイラを乗せたまま逃げても追いつかれるだけ。それならパピィが食い止めて逃した方が確実だと思ったのだろう。 「パピィちゃん!」 「キャンッ!?」  だが、獣形態のダエーワの動きは速く、攻撃を避けながら距離を詰め爪で瞬時に何回も斬りつけた。 「グルルルウゥウウゥウ!」 「ガルゥ――」  セイラの不安をよそにパピィはダエーワに噛みつき放さなかった。どれだけ素早くても密着したならば関係ない。  パピィは影操作でハリネズミのように影を変化させ噛み付いたまま旋風爪牙を行使した。    猛烈な回転で影の針にダエーワが抉られる。 「ガァ!」  ダエーワが嫌がり加速して壁にパピィを叩きつけた。 「ガウッ! ガウゥウ!」  それを何度も繰り返す。パピィは決して放そうとしない。小さな体がボロボロになっても決してだ。 「パピィちゃん離れて! ライトボール!」  セイラの声で反射的にパピィが口を放した。しめたとセイラに顔を向けるダエーワだったが光の球がその顔面に炸裂した。 「ギャッ!」 「パピィちゃん! 酷い――ディアラーゼ!」  ダエーワが怯んだ隙に駆け寄り、セイラが治療魔法を行使。ディアより強力なディアラーゼ。パピィの傷がみるみるうちに回復した。 「アオン!」  パピィはセイラの顔をペロペロと舐めるが、すぐにどうして? と瞳をウルウルさせた。狙われてるのがセイラなのはパピィもわかっている。  だからこそ逃げて欲しかったのだが―― 「パピィちゃんを置いてなんていけない。それに、私だって戦える!」  セイラが杖を構えた。これまでセイラは自分の力は困ってる人を助けるためにあると思っていた。だからこそ治療魔法の会得に力を注いだ。逆に言えば人を傷つけるような魔法からは目を背けていた。  だがシノと出会い、他の仲間達の事も知って自分のあり方に疑問も持った。勿論教会に属したのは人助けのため。その根幹は揺るがない。だが助けるためには時には戦わなければいけないこともある――だからこそ、出来れば使いたくないが、いざというときのために教会に伝わる攻撃魔法にも目を向けた。  まだ会得した数は少ないが、今この場でパピィを援護する事はできる。まさに今少女は守るために戦う、その一歩を踏み出していた。 「パピィちゃん一緒に――戦おう!」 「……アンッ!」  セイラとパピィが獣形態のダエーワと相対する。一方で相手からはどこか戸惑いが感じられた。    セイラの魔法は攻撃魔法として見ると決して強くはない。だが、ダエーワは邪神の眷属故に聖属性の魔法には忌避感があった。  おまけに今のダエーワは分体だ。素早さに特化した形態でありそれ以外の能力をかなり犠牲にしている。  基礎的な聖魔法でも油断できない―― 「ライトショット!」    セイラが再び魔法で攻撃。今度は一度に複数の光球がダエーワに迫った。 「グォ!」    ダエーワが大きく飛んで避ける。やはりダエーワの動きは速い。セイラの魔法では捉えきれなく、セイラだけでは決して当てることが出来ないだろう。 「アンッ!」 「ガッ!?」  だがセイラの横にはパピィがいる。伸びた影がダエーワに絡みつき、そのまま地べたに引きずり倒した。  ダエーワは確かに速かったが今の動きはあまりにわかり易すぎた。躱すにしても動作が大きすぎたのだ。これも本能的に来る聖属性への忌避感からきたものだった。 「ライトショット!」 「――ッ!?」  今度は全弾がダエーワの体に命中する。獣形態のダエーワの顔が苦しげに歪んだ。 「パピィちゃんこれなら、え?」 「――アンッ!?」  セイラがパピィに語りかけたその時だ、上空から飛来した翼の生えたダエーワがセイラに尻尾を絡めて飛び立ってしまった。パピィが吠え追いかけようとするが後ろからもう一匹のダエーワが迫りそれを阻止した――
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