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第56話 サムジャ、セイラを囮に?
一人の少女が夜中に通りを歩いていた。どこかの民族衣装のような物を来ている辺り、町に流れ着いたばかりの世間知らずな女なのかもしれない。
最近は事件について大分認知されており、夜を出歩くような女は減っていた。だから日が少し暮れたくらいであっても犯人は娼婦を狙って行為に至ったりしていた。
もっとも行為と言っても彼のは殺人行為――それはある意味で犯人の生きがいでもあった。喉が渇くのだ。それは本人の本能によるものなのか、天職の影響なのか、自身にもわからなくなっていた。
ただ確実に言えるのは、自らの欲望を満たすために定期的に訪れる殺意を満たさなければいけないということ。
その獲物が今目の前を歩いている。我慢ができない。迂闊にも女は路地裏に入った。
気配を消し、そして後を尾け、背後から女に迫った。手の凶器、これで先ずはどこを切ろうか?
腕を切り戸惑ったところで押し倒すか? 足を切り先ずは動きを止めるか?
いや、違う。先ずは背中を一突きだ。女はとても魅力的な背中をしており、その衣装は背中の部分がぱっくりと割れていた。誘っているとしか思えない。
そして遂にその凶刃を背中に向けて振り下ろそうとしたその時。
「掛かったな通り魔野郎」
女が、いや男が振り返り、鋭い眼で彼を睨みつけてきた。
◇◆◇
わかってしまえば簡単な手だった。そして結果的にあのブロストという冒険者ははた迷惑な奴ではあったが役に立った。
俺がセイラに協力してもらったのはその顔を借りること。そしてもう一つはシエロが見ていたあの衣装を着てもらうことだった。
そう、それさえ確認できればわざわざセイラが囮になることはない。俺が変化すればいいのだ。
ステータス
名前:シノ・ビローニン
レベル:4
天職:サムジャ
スキル
早熟晩成、刀縛り、居合、居合忍法、居合省略、抜刀燕返し、活力強化、抜刀強化、抜刀追忍、円殺陣、忍体術、暗視、薬学の知識、手裏剣強化、チャクラ強化、チャクラ操作、苦無強化、気配遮断、気配察知、土錬金の術、土返しの術、土纏の術、鎌鼬の術、草刈の術、旋風の術、凩の術、風牙の術、火吹の術、烈火弾の術、爆撃の術、浄水の術、水霧の術、水手裏剣の術、落雷の術、雷鏈の術、氷結弾の術、影分身の術、影走りの術、口寄せの術、影縫いの術、影風呂敷の術、影鎖の術、変わり身の術、変化の術
レベル4に上がった俺のステータス。その中に増えたスキルの中に変化の術があった。
・変化の術
知っている人間に変化出来る忍法。服装も含めて変化の対象となる。すれ違っただけのような相手には変化不可。
そして表示された効果がこれだ。変化の術はある程度知った人間になら好きに変化出来る。そういった忍法だったのだ。
全くまさにおあつらえ向きな忍法だったな。おかげでセイラ本人は危ない目に合わせなくて済む。
民族衣装を選んだのは、服装でもしかしたらどこか別な地からやってきた相手かもしれないと思う可能性を考えたからだ。
そうすれば迂闊な行動に見えても、この町のことをよく知らないんだろうと思いこんでくれるかも知れないからな。
「……」
「不可解って表情だな。ジャック」
「――ッ!?」
俺が名前を口にすると明らかな動揺が見られた。そりゃそうだろう。これまで性別以外は全く知られていなかったというのに名前がバレてるんだから。
勿論これはルンのおかげでもある。予め施してもらっていたんだ。鑑定の刻印を。刻印が消える前に作戦に引っかかるかは賭けだったが上手くいった。
「何故、名前がわかった?」
ようやく観念して声を発したか。パピィの情報通り野太い男の声だ。
「さて、何故だろうな? そう簡単に教えるわけ無いだろう? それよりどうする? 俺は冒険者としてお前をここで倒すつもりだが、臆病者のお前はこのまま逃げるか? もっともお前の正体がわかった以上、逃げてもギルド総出でやらせてもらうがな」
見え透いた挑発でもある。だが、こいつは恐らく逃げない。この状況で逃げても不利だと感じているはずだし、それなら俺をこの場で片付けた方が早いと思っていることだろう。
「――腹の立つ奴だ。だが、もし俺が背後から襲うしか能がないと思ったならとんだ間違いだ」
「違うのか?」
「言ってろ!」
そしてジャックが右手の手刀で俺に襲いかかってきた。振られた手刀を苦無で受け止める。キィイィイン! とう金属同士がかち合ったような音が鳴り響く。
「随分と鋭いな」
「当然だ。俺のこれは散々を血を吸って来た自慢の手刀だ」
フードから見える口元に手のひらを持っていきぺろりと舐めた。
全く薄気味悪いやつだ。しかしこいつ――
ステータス
名前:ジャック
レベル:5
天職:切裂魔
スキル
斬殺、ハンドリッパー、フライリッパー、ブラッドリッパー、経験血
これが鑑定で見たこの男のステータスだ。
レベルが5か高いな。少なくとも俺よりも上だ。
だが、それよりも気になるのは天職だ。切裂魔って物騒すぎるだろう。
普通に考えてこんな天職は考えられないが、実は一つだけ思い当たることがある。
「一つ聞くが、お前の天職、その切裂魔は闇の天職か?」
「……ニィ――」
俺が問うと、答えの代わりに不気味な笑みが返ってきた。
ただ、これは答えみたいなものか。闇の天職――通常の天職は神から授かるとされているが、闇の天職とされる物は神は神でも邪神から授かる天職とされている。
それ故に多いのは後天性でだが、たまに先天性で手に入る場合もあるとか。
闇の天職を持つものは心に闇を抱えるという。闇を抱えたから闇の天職を授かったのか闇の天職の影響で闇を抱えたのかという議論もあるようだが、どちらにせよ闇の天職もちは放置してはおけない存在だ。
「フンッ!」
と、考えている間に、ジャックが手刀を振るった。すると斬撃が俺に向けて飛んできてスパッと両断された。
「男は瞬殺だ、何!」
「変わり身だよ」
俺の代わりに切れた丸太が転がり、そして後ろに回り込んだ俺はがら空きの背中めがけて抜刀する――
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