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第59話 サムジャ、ギルド長に通り魔の説明する
「つまりパパは、溜まった仕事が片付かなくてギルドで一人コソコソと仕事してたってわけね」
「コソコソってお前もキツイなぁ。しかし、まさか泥棒と間違われるとはな」
部屋を片付けながらオルサがルンの返しにやれやれと肩を竦めた。
泥棒と勘違いは確かに最初はそうだったがな。
「ま、パピィはこの扉の前で泥棒じゃないと気がついたようだけどな」
「ワンッ」
「ギルド長の匂いを覚えていたのね。お利口ね」
「本当にパピィは賢いんだね」
「クゥ～ン」
シエロとセイラに頭を撫でられてパピィは嬉しそうだ。パピィは鼻がいい。だから二階に上がった時点でマスターの匂いだって気がついたんだろうな。
「全くお前もパピィに負けてるようじゃ駄目だぞ？」
「う、うぅ、で、でもパピィは可愛いもの！ だからいいの！」
「一体何がいいのよ何が」
若干ムキになって答えるルンを見て、呆れた様子でシエロが目を細めた。
パピィが可愛いという点に関して言えば同意なんだけどな。ルンは今回は早とちりが過ぎた。
「まぁ、怪我がなくて良かったな」
「はっはっは、ま、当たってたとしても娘の攻撃で怪我するほどやわな鍛え方はしてないがな」
ムンっと力こぶを見せつけながらオルサが得意になる。ブロストも一撃でのしてたしな。
「でも、ギルド長もそんな偉そうなこと言えませんからね。仕事が溜まってるって……だから普段から勝手に抜け出したりせずに」
「わ、わかった。わかってるって。全く職務時間外でまでどやされるのは勘弁して欲しいぜ」
弱ったなぁと後頭部を擦るオルサの姿がその場の全員の笑いを誘った。
何となく和やかな雰囲気が訪れた直後、そういえばとオルサが切り出す。
「そもそも聖女まで一緒につれてきてこんな時間に一体どうしたんだ？ まさか何か緊急事態か？」
オルサから質問が飛ぶ。セイラが聖女なのは説明済みだ。
確かに今はもういい時間だし、わざわざギルドが終わってから大勢で押しかければ、何かあったと考えるのが筋か。
「事件といえば事件ね。まぁ、一応解決したんだけど」
「解決？」
シエロの説明にオルサが怪訝そうな声を上げる。
そこから先は俺が説明した。
「通り魔事件の犯人と戦闘になってな」
「な、何だって！ おいおい、それで怪我は、て、まさかルンお前！」
「ち、違うわよ。いや、見てはいたけど囮とか危険な真似はしてないわよ」
「ルンの言ってることは本当だ。囮は俺がやったからな」
ルンを心配するオルサを安心させようと真相を伝えた。だが、オルサは疑問顔だ。
「いや、囮って相手は女ばかり襲う通り魔だっただろう？」
「あぁ、だから俺が女になったんだ」
「マジか！ お前、まさか女装で？ いや、でもよく考えたらわりとイケるか？」
「何がイケるのよ」
オルサが俺の顔をマジマジと見ながらそんなことを言った。シエロが呆れているぞ。
「女装じゃなくて、まぁ見ててくれ。居合忍法・変化の術」
俺はその場でオルサの姿に変化した。それを認めオルサ自身が驚く。
「凄いなおい。お前シノなのか？」
「そうだ。こうやって変化の術で女性に化けて相手をおびき寄せたんだ」
「なるほどな。いやしかし、ふむ、改めて見るとこの上腕二頭筋とか、バキバキに割れた腹筋とか、ふむ我ながら惚れ惚れするぜ」
俺の腕や腹に触りながら自分の筋肉を賛美するのは勘弁してくれ。俺は術を解いて元に戻った。
「何だ戻っちまったのか。て、それどころじゃないな。話はわかった。その犯人の死体を見せてくれるか？」
「わかった。ここでいいのか？」
「いやいや！ ただでさえ部屋が滅茶苦茶にされたのに勘弁してくれ」
「うぅ、悪かったわよ」
ルンがオルサに謝った。別に根に持っているわけじゃないと思うが、まぁ親子のじゃれ合いみたいなもんだろう。
「じゃあちょっと付いてきてくれ」
オルサの後をついていく。来た方とは逆側に向かうと壁に突き当たった。
だが、オルサが手に触れて何かをつぶやくと壁が開いた。隠し扉か。
「お、驚いたわね。ギルドにこんな仕掛けがあったなんて」
「ルンも知らなかったのか？」
「ま、娘とは言えそう簡単にはあかせないからな」
「あ、あのそんな場所に私もご一緒してもいいのですか？」
セイラが遠慮がちに問いかける。ふむ、セイラはギルドとは関係ないからな。
「ま、別に構いやしないさ。バレるなら何人でも一緒だ」
「そういうものなのか？」
「そんな筈ないじゃない。オルサが適当なのよ」
シエロに聞いてみたが、嘆息混じりに答えてくれた。何かもう諦めてるって顔でもある。
隠し扉の先は階段があってそのまま地下に繋がっていた。
「こっちに何があるんだ？」
「今から向かうのは死体安置所だな」
「死体安置所!? そんなのがあるの？」
「あぁ。冒険者ほど死に直面した仕事はないしな」
そして俺たちは死体安置所とやらについていく。わりと広めの部屋で棺桶の置かれた台が幾つも設置されていた。
「棺桶の中に出せるか？」
「大丈夫だぞ」
そしてオルサが棺桶の一つを開けたので、忍法・影風呂敷でその中に出してやる。
「お、おお。派手にやったもんだな」
死体を見ながらオルサが言った。損傷が激しいからな。
「パピィに仇を討たせたんだ」
「アンッ！」
「あぁ、なるほど。牙でやられたのか。飼い主がやられたんだから恨みも強いよな」
「問題はないか？」
「あぁ、大丈夫だ。元々生死問わずだったしな。いくらでもやりようはある。ま、どっちにしろ明日調べさせるさ」
そういって棺桶の蓋を締める。
「ここの棺桶には他にも死体が入っているのか？」
「あぁ。腐敗防止の術式も施してあってな。死体になった賞金首なんかを収めておく場合もある。まぁ首だけの場合も多いが」
なるほどな。そのあたりは手続きの間とか色々とあるのだろう。
「でもなんでわざわざ隠してるの？」
「死体を操る連中が一部いるからその対策だ。過去にギルドの死体を操られた事件ってのもあってそれからだな」
死体を操るか。道具でそれをやる場合もあれば、闇の天職で死霊術師なんていうのもある。
そういった連中がギルドを貶めようと行動に移すことがあるってことか。冒険者ギルドの影響は大きいからな――
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