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第62話 ハデルの思惑
「セイラ。お前は今日より仕事以外の用件でここから一歩たりとも出ることを禁止する」
「そんな、こんなの監禁と一緒ではありませんか!」
ハデルは教会に戻った後、セイラを部屋に閉じ込めることに決めた。扉に外側からしっかり鍵を締め内側からは開かないようにする。
そして覗き窓から憤るセイラの顔を見て、言い放つ。
「いいかね? これは救済だ。お前は折角聖女という素晴らしい天職に恵まれながら、あのような俗物共と関わり合いになり、身も心も毒されてしまった。お前の浄化の為にも厳しく思えるかも知れないがこうする他ないのだ。わかってくれ」
「そんな、シノもシエロも俗物なんかじゃありません! とても立派な冒険者と受付嬢なのです!」
「おお神よ! なんということか。聖女は今まさに下民の毒気に当てられ汚されようとしています。今の発言がその証拠! ですがご安心をこの私の手で必ずや立ち直らせてみせようぞ」
「ハデル大神官!」
「とにかく。ここには見張りも立たせる。食事も運ばせる。必要最低限の設備はその部屋に備わっているのだから暮らしに不自由はないはずだ。わかったら大人しくしているが良い。これは浄化のためなのだからな」
そう言って覗き窓を閉めた。
そして見張りの神官に伝える。
「しっかり見張っていろよ。それと聖女は洗脳を受けている。聞く耳など持つなよ」
「はい!」
「しっかり見張らせていただきます」
神官二人の答えを聞いて満足気にハデルは部屋に戻ろうとしたが、その途中でアグールと遭遇した。
「大神官ハデル様いつもご苦労さまです!」
「ふん。誰だったかな貴様は?」
だがハデルは塵でも見るような目をアグールに向けた。ここのところ失敗続きのアグールの評価はハデルの中でどん底にまで下がっている。
「お、お待ち下さいハデル様! その、聖女にあのような真似をして本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫とはどういう意味だ?」
背を向けたまま、ハデルが問い直す。
「その、流石にあのように部屋に閉じ込めるという真似は……教会に知られたら問題にされそうな気がしますが」
「ふん!そんなもの貴様が心配することではない。そんな下らないことを気にしている隙があったらトイレ掃除の一つでもしたらどうだ?」
「は、はい! 申し訳ありません!」
アグールの謝罪を受け鼻を鳴らしながらハデルは部屋へと戻る。そして部屋で一人になると爪を噛み苛立ちを顕にさせた。
「ジャックを倒しただと……くそ、あの屑め。ただでさえあの刀のことがあるというのに忌々しい奴だ!」
ハデルは一人憤慨していた。ジャックの件は本来なら誰か身代わりを用意させて、それを犯人とすることでダミールの手柄にさせるつもりだった。
その上で本物のジャックには街から出てもらい雲隠れさせる予定だった。もっともあの性格ならどこか他の街で事件を起こす可能性も高いが、そこまでは面倒見きれない。
そうジャックはハデルの協力者でもあったのだ。だが、その計画は今日この日頓挫した。
あのシノという冒険者がジャックを倒したせいだ。このせいで計画に大きく狂いが生じてしまう。
「仕方ない……ジャックこそ失ったがまだあのネズミの事がある。あいつらが疫病をばら撒いてくれれば私が動き問題を解決する。これであればダミールの功績にもなるし私の地位も上がることだろう」
そう言ってほくそ笑むハデルだが、後日になってその計画すら阻まれたことを知った。
なぜなら自らが準備しておいた鼠が死んでいることがわかったからだ。
「くそ! 一体どうなっているのだ!」
ハデルは更に憤る。何故こうも上手く行かないのかハデルには理解が出来なかった。
「全てあのシノという冒険者のせいだ。己どうしてくれようか!」
ハデルには問題が山積みとなった。ダミールにも計画に遅れが生じたことを伝えなければいけない。
ジャックの事件についても街中に知られ大騒ぎになっていた。勿論これについてはダミールではなく冒険者ギルドの功績となる。
「……こうなっては仕方がない」
ハデルは意を決した顔となり、そして教会の地下にできた部屋へと向かった。ハデルが密かに教会を改造し作った部屋だった。
その部屋にはおおよそ教会にはふさわしくないような不気味なオブジェが置かれていた。
目の前には骨の十字架が立てられ、魔法陣が描かれている。
ハデルはその場で跪き、何者かへと声を掛けた。
『闇神官ハデルか。一体どうした?』
そしてどこかからハデルに向けて声が届く。
「ハッ! 実は今回の件で少々厄介なことが起きており――」
そしてハデルは事の顛末を声の主に向けて聞かせた。
『なるほど話はわかった。それで我々に何を求める?』
「はい。あのシノとかいう冒険者を始末する闇の天職持ちを何人か。後はあのダンジョンを作成させたマスターも改めて呼んでもらえますか?」
『……始末する者は適当な奴でもよこしてやろう。だがダンジョンマスターは保証できぬぞ。あいつはそもそも我々の仲間というわけでもない。協力はしてくれているが気まぐれな奴だからな』
「それでも構いません。どうか声だけでも」
『……わかった。だがハデル、これ以上の失態は許されないぞ。良く肝に銘じておけ』
そして声は途切れた。ハデルは起き上がり、ほくそ笑む。
「覚えておけあの冒険者風情が。我ら邪天教団の邪魔立てをしたことを必ず後悔させてやる――」
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