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第65話 サムジャと領主?
しかしダミールか。何か最近聞いたことがあるような気がする名前だが、何だったかな?
俺が思い出そうと頭を振り絞っていると、ダミールが鼻を鳴らし口を開いた。
「ふん。しかし冒険者ギルドというのは粗暴者が多そうだ。この私が正式に領主になった暁には徹底的に改革しないといけないな」
ダミールの声は俺の耳にも届いていた。もっとも特に声を潜めているわけでもないから、周囲の冒険者にも聞いていたのはいるだろう。
「おい、今領主と言ったか?」
「いや、でも今の領主様ってカイエル・マルキエル伯爵だよな?」
「でも、噂だと最近体調を崩しているとか……」
早速冒険者たちの訝しむ声が聞こえてきた。冒険者ギルドには領主から直に依頼がくることもある。あの通り魔の事件に関する依頼も領主からだった。
そういう意味で冒険者というのは領主について気にしていることも多い。
「カイエルは私の兄だ。そして詳しくは言えないが今はわけあって仕事がままならない状況にある。故に弟であるこの私が代理として代わりに政務に関わっているのだ」
冒険者達がざわつく。こいつは詳しくは言えないと口にしたが、それは暗に語っているようなものだ。
「……ようこそおいでくださいました。時に、当ギルドに一体如何様で?」
隠すようにしてため息を吐いた後、シエロがダミールに応対した。丁重な対応だ。一応領主代理を名乗っている以上、それなりに礼儀を通す必要があると考えたのかも知れない。
「ほう。むさ苦しい場所だと思ってみたが、受付嬢には中々の者が揃っているじゃないか」
ダミールが値踏みするような目をシエロに向けた。こいつは随分と冒険者に対して好き勝手言っているが、領主代理を名乗っている割に品がない気がするが。
「……それでご用件は?」
シエロはダミールの視線と言葉を軽く受け流し、問いかけた。ダミールがムッとした顔を見せる。
「ダミール卿は依頼の件で気になることがあるようでな。公私ともに懇意にさせて貰っている私が相談を受けたのでお連れしたのだ」
相談……わざわざ冒険者ギルドに来る前にこのハデルを頼ったのか?
教会と冒険者ギルドにそこまでの接点があるとは思えないんだけどな。
「さて此度、ダミール卿がわざわざここまで足を運ばれたのは、取り下げる予定だった依頼についてだ。例の通り魔に関するあれだが、何でも既に解決したなどという真偽のはっきりしない噂が街で広まっていてな。ギルドの管理体制そのものにダミール卿は至極疑問を抱いているのだ」
噂……ギルド長のオルサが広めた噂か。オルサは後から妙な因縁をつけられないようにと、早めに街に解決した件を広めたようだが、それを聞いた領主代理のダミールが早速因縁をふっかけに来たってところか。
「今ハデル大神官が述べた通りだ。このようなでたらめな噂が広まるのは偏にこのギルドの情報管理がなっていないからであろう。全く一体どれだけ怠惰で杜撰な管理をしたらこうなるというのか、呆れて物も言えぬな」
「ちょっと、随分と勝手なことばかり言ってくれるじゃないの」
「ちょっとルン!」
すると話を聞いていたルンがダミールに向けて声を上げた。横目でチラッと見てみたが、眉をひそめ相当に不機嫌な顔つきになっている。
「これはこれは可愛らしいお嬢ちゃんもいたものだ。しかし、子どもが大人の話に首を突っ込むものじゃないな」
「誰が子どもよ!」
「ダミール卿。この者はギルド長の娘でございます」
「何? ギルド長の娘だと?」
その言葉にルンの不機嫌さがより増した気がした。ルンはあまり親の名前を出されることを好まない性格だ。
「つまり親を擁護しているわけか」
「そんなの関係ないわよ。聞き捨てならないのは、事件が解決したのが嘘みたいな言い方をされてることよ」
「しかし、私の耳にはそんな話は届いていないぞ」
「申し訳ありません。何分、昨晩の出来事ですので」
これにシエロが頭を下げた。
「だとしても先ずは直接私の下へ事情を説明するのが先だろう!」
ダミールが吠える。随分とムキになっているな。
「別にいいでしょうそんなのどっちでも。事件は解決したのだから」
「な! 貴様ギルド長の娘だからと言って、適当なことを言って許されるものではないぞ!」
「グルルゥ」
ルンを指差し、ダミールがルンの言葉を否定するように叫んだ。こういっては何だがダミールという男は人間的な器が小さいな。パピィも唸り声を上げて機嫌が悪い。
「適当なんかじゃないわよ。私はこの目でしっかり見ていたんだから」
「はぁ、それ言っちゃうのね」
「あ、でも、こんなことを言われて黙ってるのも癪じゃない!」
シエロに言われてルンがハッとした顔を見せる。まだ正式には俺がやったと伝わっていないからな。
「見ていただと? どういうことだ?」
「ルンは通り魔の犯人が倒された現場にいたのです。何せ倒したのはルンとパーティーを組んでいるこのシノですから」
結局シエロは俺のことを明かすことに決めたようだ。まぁどっちにしろハデルがいる以上、遅かれ早かれバレることだろう。
「シノ、そうかこいつが……」
「はい。こやつがあの」
と思ったらどうやら名前は知っていたようだな。ハデルの口ぶりからして事前に知っていたのだろう。
「ふん。なるほどお前がか。だが、なら尚の事信用できんな。話によるとこの男はサムジャなどという使えない天職持ちだそうじゃないか。そんな男に犯人が捕まえられるとはとても思えん。いや、それどころか逆に犯罪を犯している可能性すらあるな。おい、お前たち入ってこい!」
すると、ダミールが妙なことを口走ったかと思えば鎧姿の騎士がぞろぞろとギルドに入ってきた。
おいおい、一体何のつもりだ?
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