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第68話 サムジャと迷推理
ハデルはどうやら俺が真犯人であることを証明出来るらしい。犯人でない以上、ハデルの言っている意味はさっぱり理解できないのだが。
「一体、俺のどこに犯人の要素があるというんだ?」
「アンッ! アンッ!」
とはいえ、念の為に聞き返してみた。パピィも聞かせてみろ! と訴えんばかりに吠えている。
「ふふ、お前は確かに今言ったはずだ。隠し通路があったと。だが、だとしてそれがお前だけに見つけられたというのが先ずおかしい」
「報告ではそもそもシノは、一緒に向かった冒険者パーティーに騙された結果、隠し通路の先に行くことになったとあり、シノより先に騙した連中が隠し通路を使って移動してるんだが?」
「……」
オルサの指摘でハデルが間違いないと言っていた推理は早くも暗礁に乗り上げてしまったようだ。
「……そんなもの嘘に決まってるだろう」
「ギルドカードが回収されてるので、嘘ではありませんよ」
呆れ顔でシエロが言う。ハデルの隣で聞いていたダミールでさえ、おいおい大丈夫か? という顔をしているぞ。
「……コホン」
するとハデルが一旦咳きし、そしてにこやかな顔を俺に向けてきたが、すぐに表情を変え叫び声を上げた。
「とにかく! 貴様がその呪われた妖刀を持っていることが何よりの証拠だと言っておるのだ!」
「前提覆してとんでもない暴論に切り替えたわよこいつ!」
ルンが声を張り上げる。それはそうだろう。この男さっきから言っていることが支離滅裂すぎる。
「いいか? サムジャなんてものは本来弱い使えない最低の天職だ。しかし、その妖刀の力によって奴はとんでもない力を手にいれた。これが真相だ! おぞましきは妖刀によって狂化し、夜な夜な人の血を求めて出歩く殺人鬼になってしまったことだ!」
「あんたそれで本当に話が通じると思っているのか?」
オルサが心底呆れたような半目でハデルに問う。しかしこの期に及んでハデルは未だ強気な姿勢を崩していなかった。
「ならば逆に問おう。その妖刀が呪われていないと証明できるか?」
「そんなもの鑑定させれば一発で……」
「馬鹿め。強力な妖刀は鑑定だけでは一見わからぬものよ。鑑定結果が出たからと言ってそれが妖刀ではないなどと言い切れぬわ」
ハデルがほくそ笑む。いや、そんなことを言い出したらどんな答えも意味を成さないだろう。
「だったらどうしろと言うんだテメェは」
「今の暴言は聞かなかったことにしてやろう。その上で提案だ。妖刀が本物かどうかは教会のやり方で知ることが出来る。そういったものは寧ろ教会が専門だ。そのうえでシノの身柄は一旦こちらで預かる。疑わしい以上それもやむなしだろう」
「うむ、確かにな」
ダミールが頷く。何が確かにだ。
「勿論調べがついてその刀が偽物だとわかればどちらも解放してやろう」
「おお! それは良い手だ! 間違いがないな!」
それのどこがいい手なんだ。どう転んでも俺にとってプラスになることがない。
「ふざけるな。そんな提案受けられるわけ無いだろう。言っておくが俺はお前のことを一切信用してないからな」
「それは教会を信用してないと言っているに等しい。普段教会の世話に散々なっておいて、なんとも愚かな判断だと思われますがな」
「教会を信用してないんじゃなくてお前らを信用してないんだよ。あとお前が来てからさっぱり世話になんてなってねぇよ」
「そうよ! さっきから聞いていれば勝手なことばかり言ってさ!」
「私も同意です。今の話だとシノの刀が呪われているかそうでないかの判断は貴方の胸一つで決まるってことではないですか」
「ガウガウ!」
三人とパピィから総バッシングを受けるハデルだ。何か俺のためにそこまで言ってくれるとはありがたいが俺もこのままとはいかないな。
「俺の刀は妖刀ではない。天下五剣に数えられる数珠丸恒次だ。鑑定でも出てくるだろうし、それでも信用できないなら先ず文献でも当たって調べて見るんだな。そうすればきっと嫌でもわかるだろう」
誰に言ってもピンッとは来ないようだが、過去には刀の情報が載った書物もあったものだ。ならば探せばまったくないということはないだろう。
「質問の答えになってないぞ。私はその刀が呪われてないことを証明しろと言ったのだ。鑑定などという曖昧なものではなくな」
鑑定が曖昧とか、またとんでもないことを言い出したな。
「さぁどうした言えないのか?」
「そうだ言ってみろ。本当に呪われていないというなら、その根拠を!」
「さぁ!」
「さぁ!」
「さぁさぁ!」
「さぁ!」
「さぁ!」
「さぁ! どうした言ってみろ!」
ハデルとダミールが詰め寄ってきて俺に根拠を示せと言ってきた。鑑定を信じずそれ以外の方法とか、また妙なことを……いや待てよ?
「オルサ。妙なことを聞くけど、今毒はあるか?」
「は? ど、毒?」
「そうだ。毒薬でも毒草でもいいんだが」
「そう言われても、いや。確かそうだ、薬草と間違えて持ってきたっていうのが確か――」
オルサがギルドのカウンターをごそごそと探し始めた。
「おお、あったあった。これはドクニマミレ草だ。しかしかなり強力な毒だぞ? 間違って口にしたら先ず死ぬ」
「それならちょうどよい」
「ふん。何だ貴様はそんなもので一体どうするつもりだ? はは、見たかハデル。この男遂に頭がおかしく、ハデル?」
ダミールが俺を笑い飛ばすが、一方ハデルは額に汗を滲ませている。表情からも余裕が消えているが、とにかく俺はオルサから受け取ったそれを、もぐもぐと食べた。
「は、はぁあああ! お、お前何やってんだ馬鹿!」
「ちょ、シノ死んじゃうわよ!」
「吐きなさいシノ! 今すぐ!」
するとオルサとシエロとルンが駆け寄ってきて慌てだした。ルンは俺の背中を叩いてきてる。
「心配しなくて大丈夫だ。俺は毒が効かないからな。この数珠丸恒次の効果で」
「え? そうなのか? いや、確かに平気そうだな」
「あぁ、旨くはなかったが問題ない」
「毒草だし、そりゃ美味しくはないだろうけど……」
「でも、凄いわね。その刀、ん? ちょっと待ってよそれって!」
シエロがピンっと来た顔を見せる。流石察しがいいな。
「ああ、そういうことだ。これでわかってくれたか? この刀は妖刀どころか俺を毒や病気から守ってくれる素晴らしい業物だ。疑う余地もないと思うが?」
「う、ぐぐぐうぅうぅうううう!」
俺がハデルに妖刀ではないことを証明してみせると、ハデルが苦虫を噛み潰したような顔で唸り声を上げた。
「お、おいハデル! どうした、何か、何か言い返してみ――」
「あなた達、一体何を勝手な真似をしているのですか!」
ダミールも随分と慌てているが、そこに今度は快活な女の子の声がギルドに響き渡る。
見てみると入口近くにドレス姿の少女とメイド姿の女性が立っていた。
「な! ミレイユ、それにメイシル――何でこんなところに!」
そして二人に目を向けたダミールもまた、苦々しそうな表情に変わった。どうやら、この男もよく知っている二人なようだが――
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