第70話 サムジャの疑いは晴れ、ない?

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第70話 サムジャの疑いは晴れ、ない?

「ふ、ふざけるな! そんな話、この件とは関係がないだろう!」 「そうでしょうか? 領主の資格があるとはとても言えないような人が、領主をやっているという事実には問題があるとしか思えません」  話を聞く限り真っ黒なダミールは、表情を曇らせミレイユに文句を言った。だがミレイユは負けてはいない。  周囲の冒険者達はすっかりこの話に興味津々だ。恐らくだがこの噂はすぐにでも街に広まるだろう。  冒険者というのは噂話が好きだからな。守秘義務なんて基本あってないようなものだとは、冒険者の中ではよく言われる話だ。それもどうかと思うけどな。 「ワンワン!」  パピィも嬉しそうだな。いいぞもっとやれとでも言っているようだ。 「今の領主ってあんなのだったのね。ちょっとショックね」 「違うわよルン。あれはあくまで代理。私の知る限り本当の領主様は出来た人よ」 「あぁ、冒険者相手でも邪険にするようなこともなく、対等に見てくれる人だったしな。その性格は何となくだが娘さんにもしっかり受け継がれている気がするな」  話を続けるミレイユを見ながらオルサがそう評した。確かにミレイユはしっかりとした考えの持ち主でもある気がする。現状で冒険者を下に見ている感じもしない。あのダミールやハデルとは真逆だ。 「とにかく、貴方もこれ以上今の立場が続けられると思ったら大間違いですよ」 「な、なに? どういうことだ!」 「今いったとおりです。こちらとしても色々と調べはついているのです。屋敷でもこれ以上貴方の暴挙が続かないよう伝えています」 「馬鹿な! 私は兄に頼まれてわざわざ代理として職務を全うしているのだぞ!」 「その頼まれたという内容そのものが怪しいということです。どちらにせよ近日中には明らかになることです」    メイシルというメイドが凛とした態度でダミールに接していた。代理とは言え、領主を名乗る男に対して全く物怖じしていない。美人なだけでなく、随分と肝も据わっていそうだ。 「き、近日、貴様ら一体何をコソコソと!」 「別に私は貴方の姪というだけで、親しくもありません。例え領主の代理と言えど、私が何をしているかにまで首を突っ込まれる筋合いではありませんよ」 「ぐぐぐっ!」 「……ダミール卿。ここは一旦――」  悔しさからか顔を真っ赤にさせて唸るダミール。するとハデルが何やら耳打ちした。    途端にダミールが落ち着きを取り戻し、身なりを整え、目を細めた。 「ふん。そこまで言うなら取り敢えずは勘弁してやろう。だが、通り魔について私が疑っているのは事実だ。もし、これで新たな犯行が行われたりしたら、例え姪といえどその責任は重いぞ! いいか! 私は犯人は別にいると、そしてその可能性が高い人物も直ぐ側にいることをしっかり伝えたからな! 忘れるでないぞ!」    そう言い残し、騎士たちを引き連れダミールとハデルは出ていった。  やれやれ、負け犬の遠吠えにも思えるがな。しかし、ふむ。 「パピィ。ちょっといいか?」 「ワン?」  パピィが小首をかしげて、なになに~? と近寄ってきた。可愛い奴め。とは言え、ちょっと気になるからな―― ◇◆◇ 「くそ、全くもって上手くいかないではないか! 一体どうなっているハデル! 通り魔の件といい、病を治させることで評判を上げる話といい全てが上手くいかないではないか!」  ハデルを目の前にしてダミールが激しく憤っていた。悔しさから地団駄を踏んでいる。 「落ち着いて下さい」 「これが落ち着いていられるか! 大体あの姪も腹が立つ! メイドもだ! 何故あそこまで自信があるのか。は、まさか奴ら聖女でもよこす気ではあるまいな!」 「ご安心をそれはありえません。聖女は今教会にて監禁しております。冒険者との繋がりも見られたのでね。今回のこともあるので暫くは出す気もありません」 「そ、そうか。それなら良かった。だが、そんなことが長く続けられるのか?」 「……勿論、あまり長くやっていると本部に怪しまれる可能性がないとは言えませんが、それまでには障害は排除される予定ですからご安心を。それに、例え聖女が動いたとしても呪いはそう簡単には解けませんよ」 「それならいいのだが……」  ハデルの説明を受けるもダミールの表情には余裕が無くなってきている。もともとダミールは決して気が強いタイプではない。人間として非常に小さな男だ。    今は領主代理という立場に加えハデルの協力もあるから気が大きくなっているにほかならない。 「一つだけ気になる点を上げるとすれば、ミレイユとメイシルというメイドが見せた自信ですな。ダミール卿、何か身に覚えは?」 「そんなものはないぞ。私にミスはないはずだ!」 「既に色々と調査されてしまったようではありますがな……しかし領主代理の件も随分と追求されていましたな……一応確認ですがあの手紙は処分されましたでしょうな?」 「勿論だ。あの後、流石に手元においておくのは不安だったからな。しっかりゴミとして捨てたぞ」 「ゴミとして?」  ハデルの眉がピクリと反応する。 「……ゴミとしてというと?」 「勿論ビリビリに破いてゴミ箱にポイだ!」  それを聞き、ハデルが頭を抱えた。 「ど、どうしたのだ? そんな顔をして?」 「やれやれ、ダミール。間違いなくそれだ」 「は? いや、それよりも今、お前私のことを呼び捨てにしなかったか?」 「黙れこの馬鹿が! 一体私がどれだけ苦労して貴様のような無能を領主代理に仕立て上げたと思っているんだ! 借金だらけで私が声を掛けなければ今頃とっくに殺されていた貴様を!」 「な、そ、それを今更言うのはなしだろう……」  ダミールが眉を落とした。そう、そもそもで言えば、ダミールが突如領主であるカイエルの元を訪れたのもハデルの差し金であった。 「ふぅ、とにかくだ。いまので大体わかった。恐らくあのメイドはお前が破り捨てた手紙を回収している。そして恐らく破れた手紙を復元し筆跡鑑定にでもだしているのだろう。魔法偽装を掛けてはいるが、その道のプロに渡ったら偽装を見破られる可能性は十分にある。そんなことになれば、代理に委任した内容そのものが嘘であると露呈することだろう」 「な、ど、どうするんだ! そんなことになれば私は終わりだ!」 「落ち着け。魔法偽装を破れる鑑定士となれば出来る者は限られる」 「あ、そうかその筋を当たって買収すれば!」 「駄目だ。それでは確実性は薄い。そうだな、こうなったら奴らを先ずそっちに向かわせるか」 「は? 奴ら、一体何のことだ?」 「……それは今はいえんな。お前はもう信用できない。とにかく、お前はもう黙っていろ。後は私がなんとかする」 「なんとかって、ま、まさかやるつもりなのか? だけど、それだと正式に就任した後売り飛ばす話が……」 「心配するなと言っているだろう。それに、動くとしてもあのメイシル一人だ。ミレイユまで動けば目立つだろうからな」 「それだって、私もまだ味見してないのに!」 「いいかげんにしろ! 今はもうそれどころではないのだ。それにそうすれば犯人として……チッ、これ以上ここでする話ではないな。とにかく私は準備があるからすぐに戻る。お前は屋敷で大人しくしていろ! いいな!」  そう言い残し、ハデルがその場を離れた。完全に立場が逆転した気もするが、残されたダミールも外に停めてあった馬車に乗り込み待機していた騎士たちと帰路についた。  そして影の中からその様子を見ていたパピィもまた、御主人様の下へ帰るのだった――
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