第72話 サムジャ、令嬢からの依頼

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第72話 サムジャ、令嬢からの依頼

 結局、千面のマスカも俺たちの話に加わることになった。その方が早いというのがマスカの判断でありミレイユもAランク冒険者が同席してくれるならむしろ心強いという話となった。  そしてオルサの部屋で先ずミレイユの話を聞くことになった。 「先程の件と関係があるのですが、実はあのダミールに領主を任せると残した父の手紙を入手したのです。それを信頼できる筆跡鑑定師に預けていて今日の夜受け取る手はずとなっていました」 「えっとつまりミレイユ様はその手紙が偽物だと疑っているといういこと?」 「そうです。手紙には色々とおかしな点が多く、それはここにいるメイドのメイシルも気がついていたことでした」    ミレイユの言葉に合わせるようにメイシルが頭を下げた。マナーに明るくない俺でもわかるぐらいに美しい所作だな。 「ただハデルという大神官は口が達者であり、また決定的な証拠というものも用意できず、ダミールの勝手な振る舞いを許してしまいました」  そこまで語った後、ミレイユがオルサに向けて頭を下げる。 「この度は本当に申し訳ありませんでした。私もまさかお父様が出していた依頼を勝手に取り下げようとしていたことに気づかず、ギルドに迷惑を掛けてしまって」 「いやいや、嬢ちゃんが謝ることじゃねぇよ。悪いのはあのダミールだろう? まぁ、俺もおかしいとは思っていたけどな。こっちもその時点で、お嬢ちゃんやそこのメイドさんみたいに話のわかりそうな相手に確認すべきだったんだ。むしろこっちこそ悪かったな」 「いえ、そんな」 「いやいや、でもさ嬢ちゃん。人間中々完璧には動けないものさ。こっちにも不足があったが嬢ちゃんにもあった。それならどっこいどっこいってことでいいじゃねぇか。それに結局犯人はここにいるシノが退治したんだからな」  オルサが立ち上がり俺の背中をバンバンっと叩きながら朗らかに言った。  ふむ、流石と言うべきかもしれない。いまのでミレイユの気持ちもだいぶ楽になったと思うしな。 「でもパパ。ちょっと口調が失礼すぎない?」 「あん? そうか? いや悪いね。俺はずっと冒険者だけやってきたような男だからどうも礼儀とか作法に疎くて」 「いえいえ、むしろ親しみやすくて有り難いですよ。それにしてもギルド長のお嬢様だったのですね」 「そうなんだ。俺に似て可愛いだろう?」  ギルド長がルンの頭に手をおいてニカッと笑うと、ミレイユとメイシルが顔を見合ってクスクスと笑った。大分場が和んだな。 「ワンッ!」 「あら、ふふ。可愛らしいワンちゃんですよね。実はずっと気になっていて」 「良かったら撫でてくれたらパピィが喜ぶ」 「へぇ、パピィちゃんっていうのね。いい名前ね」 「アンッ!」    ミレイユとメイシルに撫でられてパピィも嬉しそうだ。そしてマスカが妙にウズウズしている。 「マスカ撫でたいのか?」 「ば、馬鹿言うな! 私はそ、そのようなもふもふに興味などなど!」 「クゥ~ン……」 「あ、パピィがしょげっちゃったよ!」 「え? ち、違うぞ、そうではないのだ! 別に嫌いというわけではなくてな!」  マスカが慌てて弁解した。ふむどうも無理して自分を抑え込んでそうな空気も感じるな。  仮面もその現れなんだろうか? 「さて、それじゃあそろそろ話の本題といこうか」 「はい。そうですね。依頼は二つあるのです。先ず先程お話した手紙に関係しているのですが、それを受け取りに行くメイシルの護衛をお願いしたいのが一点。そして教会の聖女をどうか屋敷まで連れてきてもらえないか、というのが更に一点です」  教会の聖女……それはつまりセイラということか? 「聖女ってセイラのことよね?」 「すみません実は名前までは知らされていなくて。ですがご存知なのですか?」 「色々と縁があってな。パピィの怪我を治療してもらったりしたんだ。それがきっかけでルンとも仲良くしている」  俺の話にミレイユとメイシルが目を丸くさせた。 「でしたら、是非ご紹介していただくことは出来ませんか?」 「私からもお願い申し上げます。旦那様の病魔を取り除くには聖女様のお力を借りる他ないと考えておりまして」  ふむ、そういうことか…… 「駄目でしょうか?」 「そんなことはない。ただセイラは優しい子だしだれであろうと別け隔てなく接する少女だ。そういう意味では領主の娘だからといって特別扱いすることもないだろうが、事情を聞けば協力してくれるだろう。教会には相談にいったのか?」    個人的に気になったのはそこだ。教会は人によって対応を変えるようだが領主の娘であるミレイユを邪険にするだろうか? 「それが、教会に聞いてみたのですが、今は聖なる儀式に入っていてそれが終わるまでは一切の外出を禁止されていて、面会も出来ないと一点張りでして……」 「え、なにそれ? 私は知らないけど、シノは知っている?」 「いや、俺も知らないな。ただ――あの時のハデルの様子から考えると……」  ハデルはえらく激昂していた。そのうえで半ば強制的にセイラを教会に連れ帰ってしまった。  つまり、それからセイラは教会から出してもらえていないってことか? 「話を聞いている限り、二人が聖女と親しいとはいえ、そもそも教会で監禁に近いことをされているなら、会うのは厳しいかも知れないな」 「そんな監禁って……」 「クゥ~ン……」    ルンとパピィの表情が暗くなった。俺もだが心配なのだろうな。 「しかし、聖女が必要とはな。ただの病ではないのか? 話ではあのハデルが治療にあたっているんだろう?」 「そうですが、むしろあの男が来てからのほうが病状が悪化している気がして……」 「旦那様のお体も徐々に蝕まれていっているのです。進行を抑えているとあのハデルは言っていますがとても信用できません」  病魔……ふと、俺はパピィの伝えようとしてくれたことを思い出した。 「その病魔というのはもしかしたら呪いかもしれないぞ」 「え? の、呪い!?」  俺の言葉にミレイユとメイシルが目を白黒させた。一方でマスカが仮面越しにピクリと反応したようなそんな気がした――
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