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「あのあと、きみが消えたあと、ぼくはきみを必死で探した」 由美子か来るまえに、注文していたコーヒーて口を湿らすと続ける。 「そして、ぼくにはいつもあのきみの匂いの記憶があった。きみは、ぼくに記憶を残していかなかったね。けど、ぼくはきみに最後に会ったときに、きみを思い出したんだよ」 手元にあって、旅行者の原稿。そして、街中で嗅ぐケーキなどの甘い匂いは、記憶の淵へと沈みがちになる由美子の記憶を思い出させるのに充分だった。 そして、残された封筒。 「三十一年後、もし覚えていたらこの住所に手紙を送って。そして、待ち合わせをしましょう。場所は、ふたりが最初に会ったところがいいかも。でも、あなたが忘れてしまっても大丈夫。わたしには、あなたが元気なのはわかるけら」 「あの言葉は、と言うよりあのとききみは、ぼくがデビューすることを知っていた。だから、元気でいることがわかると言った。そうだろう?」 「ええ」 由美子は頷く。 「この時代のあなたは、作家として成功している。もちろん、あの作品でね」 そういってから由美子は大悟を見つめた。 ほんの二週間前まで、彼の時代にいて同じ時間を過ごしていた。 だが、確実にふたりの間には年月があった。 「………きみは、変わらないね」 「だって、わたしにとっては数日前だもん」 そういった途端、由美子は哀しくなった。自分にとっての数日は、大悟にとっての三十一年間なのだ。 「………結婚はしたの?」 「………一度はした。けど、どうしてもきみを忘れることは出来なくて、結局ひとりさ」 美砂が消えたあと、大悟は言った。 また会ったら、必ず一緒になろうと。そして由美子も言った。どんなに変わろうと、一緒にいたいと。
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