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音。
「なあ、早紀。訊いてくれ。音が、この部屋では未来の音が聴こえるんだ。もうずっと、何日も前から聴こえるんだ……」
「また、その話。私には何も聴こえないけど……」
「ほら、今度はお前が誰かに襲われる未来の音だ。やめて、離してって叫んでる! お前が、襲われる! 逃げよう」
「ちょ、どうしたのよ、あなた。ねえ、離して! ちょっと! あなたってば!!」
――五分後。
「やめて! 離して、お願い!! あっ……。」
「あ、早紀!! 早紀……。なあ、どうして床に倒れたまま、何も言ってくれないんだ。早紀! 早紀!! あれ、何か。どすんって音が聴こえる。未来の音だ。何の音だ……ベランダから……何かが落ちたような……」
――五分後。
「ああ、早紀は俺のせいで死んだ……。あの音は……俺が落ちる音か……。早紀のところに行かなくちゃ……。でもなんだ、この悲鳴……? 人が死んでるって……俺は、早紀に会いに行くだけなのに……。待っててな早紀……」
――五分後。
「いやあああ! 人が! 人が死んでる! 誰か来て! え、サイレンの音? 私、救急車なんて呼んでない。緊急搬送中って、何?」
――五分後。
周囲に鳴り響くサイレンの音。
『こちら、重傷者を緊急搬送中。緊急搬送中。すみやかに、道を開けるようお願い申し上げます』
救急車が、サイレンを響かせながら、男を搬送していく。
――五分後。
――無音。
男性が搬送中に死亡。それ以降、五分後の音を聴いたものはいない。
(了)
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