わが社の『半沢直樹』ッ!

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わが社の『半沢直樹』ッ!

 本日着任で、東京真ん中らへん銀行から、うちの会社へ出向で、新しく部長がやって来ることになっていた。  これがまた、噂によると、話題のTBSドラマ、あの『半沢直樹』を演ずる俳優・堺雅人さんにそっくりのイケメンナイスミドルらしい。  女性社員たちは、ソワソワ、ソワソワ。  そして、あろうことか、漢字は違うらしいが、その名も『はんざわなおき』と言うらしい。  偶然もここまで重なるとなると、恐らく、この職場も、はんざわなおき部長を中心に、ドラマチックな騒動が巻き起こるのかも知れない。  そんなことを思っていたら、朝礼が始まった。 「はい、皆さん、おはようございますッ!」 「おはようございますッ!」  今朝も、社長と社員全員で元気よく朝の挨拶を交わした。社長の横には、噂の新任部長。 「うわ~、ほんとに堺雅人さんに、そっくりだよね♪」 「だよね~♪」 「笑顔が素敵なナイスミドルだわ♪」  今まで、冴えないオッサンばっかりの職場だっただけに、女性社員たちの、『期待値(きたいち)(だい)ッ!』の、何だかウキウキワクワクの小声が、そこかしこから、聞こえていた。 「え~、皆さんもご承知のように、本日より、新しく、部長を迎えることになりました。それでは、自己紹介をして頂きます」  社長からの軽い前フリが終わり、部長がホワイトボードに、黒のマーカーで、大きく自分の名前を書き、社員全員から、大きなどよめきが起こった。  ホワイトボードに書かれた名前は、  ー 『半沢直木』 ー  漢字は違えど、噂どおりッ!   社長も、みんなの反応を楽しもうと、()えて、半沢部長の名前を、自分の口からは発することなく、早速と、自己紹介に振ったのだろう。みんなの反応にニヤリとしていた。 「え~、皆さん、初めまして! 本日着任いたしました、『はんざわなおき』……」 「Oh~~~ッッッ!!!」  再び、社内がどよめくと、半沢部長は、ほんとに堺雅人さんのような笑顔になり、 「……『はんざわなおき』と書きまして、(わたくし)、『なからざわ・ちょくぼく』と申します♪ 皆さんと、しっかり汗をかいて頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたしますッ!」  社員全員、 「ズコ~~~ッッッ!!!」  と、ズッコけた。社長と部長は、してやったりの表情で、大変ご満悦の様子だった。  社員全員が起き上がり、 「よろしくお願いいたしま~すッ!」  と、和やかな雰囲気で、  ー パチパチパチパチ~ ー  と、拍手が沸き起こった。社長がニタニタしながら、「何か質問はないか?」と、社員に振るので、お調子者の社員たちが、部長に軽い質問を投げ掛けた。 「部長、好きな作家は、どなたですか?」 「私の名前が『直木(ちょくぼく)』だけに、何となく『石川啄木(いしかわたくぼく)』には、親近感を覚えますね」 「座右の銘は、やっぱり……、『やられたら、やり返す、倍返しだッ!』的な感じですか?」 「(いわ)われたら、(いわ)(かえ)す、『お(いわ)(がえ)し』だッ!」 「御香典(おこうでん)を頂かれたときは~?」 「御香典を頂いたら、粗供養(そくよう)(かえ)す、『御香典返(おこうでんがえ)し』だッ!」 「古代、高床式倉庫等に取り付けられた、ネズミから穀物等を守る器具は?」 「『ネズミ(がえ)し』だッ!」 「昭和の女性三人組アイドル、ラン・スー・ミキちゃんのキャンディーズの曲と言えば?」 「『微笑(ほほえ)(がえ)し』だッ!」  いつの間にやら、朝礼がクイズ大会になっていた♪ 「お~い、皆さ~ん! クイズで盛り上がっているところ、すいませ~ん! あと5分で、始業時間ですよ~!」
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