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「えーと……。智さん、わたしは、智さんとのこのお付き合いを、わたしの最後の恋にしたいと思ってて。だから、この先もずっと、わたしと一緒にいてくれませんか?」
柚希さんが、真っ直ぐな目で、わたしの手を取り言ってくれた。
『あの、それはその…えーと……。』
「あっ、難しく考えないで…うん。ただ、自分の気持ちを、もう一度きちんと伝えたかっただけだから…。」
『あぁ…そっか。うん…。』
「あっ!あと…これ…。どうぞ…。」
『えっ!これって…』
「一応、指輪。出来たら、右手の薬指とかにしてもらえたら…。」
柚希さんは、未だ、いつになく真剣な表情のまま。
多少、話し終えた安堵感は見られるものの、やはりまだ緊張している様子で…。
ブルーのスエードのケースを手渡されたわたしも、突然のことに戸惑いを隠せなかった。
『……。』
「……。」
「ゴメンなさい。わたし、その…前のめりで。でも、本当…さっき言ったのは、わたしの今の気持ちだから…。」
『うん。そうだよね…うん…。』
「悠君にもね、伝えたの。わたしの気持ち…。」
『えっ、悠に…?』
「あっ、でも…具体的にとかじゃなくて、“今よりもっと、お母さんと仲良くなりたいから、いいかな?”…みたいな感じで…。」
『それで今日の午後…?』
「うん…。」
まるで、蛇に睨まれた蛙みたいに、肩を丸め、こちらを伺う柚希さん。
わたしは、そんなはじめて見る彼女の姿に、急に可笑しくなってしまった。
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