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グループ会社全てが集まる企画発表会となれば、打ち上げもそこらへんの居酒屋ではなく、豪華なホテルのホールを貸し切りで行われる。
毎年恒例となったこの交流会は、他社との新しい出会いが多くあるため、わたしみたいな独身者達には、もっぱら相手探しの場として意識されていた。
服装は所詮会社の制服だから、そうたいしたオシャレも出来ないけど、それでもそれ以外のところで頑張ってる女子達が、あちらこちらで目立っている。
同僚の真里子なんて普段つけないような派手なネックレスをしてるし、綾子先輩なんて左官小手で塗ったみたいなファンデーションで、完璧に目尻のシミを隠している。
きらびやかなシャンデリアが見下ろす広い会場には、立食用のテーブルが並び、美味しそうな数々の料理が、所狭しと湯気を競わせていた。
綾子先輩はそれらに見向きもせず、もっと美味しそうなイケメンの物色に目を光らせているし、真里子はさっそく好みの男子の取り皿を奪い取り、押し付けがましくエビチリをよそってあげていた。
ひしめく人々の談笑の中、壁際の隅っこでわたしは1人、ため息が出そうになる口を、無理矢理唐揚げでふさいでいた。
わかっている。
どうせこんな地味な女に、男達は声をかけてもくれないことを。
ましてやあの人なんか、わたしにとっては雲の上を通りこし、遥か銀河の彼方の存在であることを。
チラリと横目で見た先には、たくさんの黄色い声に囲まれた、長身の青年の姿があった。
綺麗に折り目のついた高そうなスーツを着こなし、清潔感溢れる爽やかな笑顔を、甘ったるい香水の渦に惜し気もなく振り撒いている。
尾嶋さんに初めて会ったのは部長の送別会の後だったから、かれこれ3年4ヶ月前になるだろうか。
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