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有り得ない存在が、いきなり有り得ない所に立っていて、有り得ない事をしてのけたのだ。
今まさに超常現象に遭遇したわたしは、空念仏でも唱えるみたいに、口をパクパクさせることしかできないでいる。
尾嶋さんは、穏やかな笑みを作って言った。
「たくさん食べる子、僕は好きだなぁ。
一緒にいて気持ちがいいよね」
「……っ!?」
予め頭からガソリンでも被ってたみたいに、瞬発的に熱くなる顔。
バクバク食いまくってるとこを見られた恥ずかしさもあるけれど、それよりも心臓がバクバクなのは──
“僕は好きだなぁ”
その言葉が何回も何回も頭の中でリピートされて、わたしの視界を大きくぐらつかせていた。
いやいやいや、冷静になるんだわたし。
尾嶋さんが、何の気なしに言った言葉にすぎない。
考えてもみろ、お前はブスだ、勘違いするんじゃない。
懸命に自分に言い聞かせながら、口から飛び出しそうな心臓を烏龍茶で流し込んでいたのに──
「さっきからずっと気になってたんだけどさぁ。
灰谷さん、なんだかすごく綺麗になったよね」
「ぶっ……ふぉおぉぉーっ!?」
盛大に噴き出した烏龍茶が目の前のよだれ鳥に撒き散らかったけど、わたしにはもう、そんなことを気にしてる余裕なんてなかった。
な、なんで!?
尾嶋さんが……どうしてそんなことを!?
混乱する頭で、必死で今の状況を把握しようと努める。
ドッキリじゃないかと思って、テーブルクロスの下まで隠しカメラを探す。
向こうで彼を取り巻いてた女子達が、こちらを睨んでいるのが見える。
綾子先輩は、化粧の壁にヒビでも入りそうな凄まじい形相だし、真里子に至っては周囲の男子達に、わたしが社員旅行でチョロッとだけおしっこ漏らしたことを言いふらしている。
どうやらガチっぽいと悟った瞬間、脳裏をよぎったのは、来る前に立ち寄った、あのコスメサロンだった。
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