23時55分のシンデレラ

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. 郊外の奥まった路地にあり、壁一面が蔓草で覆われたその店は、確か名前を『パンプキン・キャレイジ』と言った。 こじんまりとした店内には、聞いたこともないブランドの化粧品がズラリと並んでいて、うっとりするような香水の匂いに満ちていた。 おとぎ話にでも出てきそうな、メルヘンチックな店の外観や、どこか不思議な雰囲気のする店内。 それだけでわたしみたいな女でも、奇跡的な何かを期待せずにはいられないものがあったと思う。 店主であろう黒ドレスの女性は、わたしの顔をしげしげと眺めた後、棚から半球体の小瓶を取り出して言った。 「あなたの顔立ちだと、きっとこのガラスのファンデーションが良いと思うの。 これは透明だから派手さはないけれど、清楚でみずみずしい印象を与えてくれるわ」 透明なファンデーションは知っていた。 肌を色で覆うんじゃなくて、どちらかと言うとコーティングするイメージに近く、光の拡散効果を活かして素肌を綺麗に見せるものだ。 コンシーラーで気になる所を抑えたあと、言われるままにサンプル品を試してもらったら、確かになんとなく、肌が艶やかになったように見えなくもなかった。 「これで貴女は今夜のパーティーの主役ね。このガラスのファンデーションで、意中の人が振り向いてくれるかもしれないわよ。 だけど注意してちょうだい。 これはもっても……そうね、ちょうど深夜の0時くらいまでかしら。 それをすぎたら、貴女の魔法は解けてしまうのよ」 塗ったのがお昼過ぎだったから、だいたい12時間ほど肌を保つということらしい。最近じゃあ24時間以上持続するものもザラだけど、まあ、それだけもてば充分だろう。 どうせ最初から、鬱陶しいだけの二次会には、参加するつもりがなかったし── その時はそんなふうに思い、サンプル品を使っただけで店を出たけれど、今は店主の言った言葉の意味が、ものすごく理解できた。 ファンデーションが、汗で崩れるという意味じゃないんだ。 このガラスのファンデーションは、文字どおり“魔法”なのかもしれない。 .
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