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郊外の奥まった路地にあり、壁一面が蔓草で覆われたその店は、確か名前を『パンプキン・キャレイジ』と言った。
こじんまりとした店内には、聞いたこともないブランドの化粧品がズラリと並んでいて、うっとりするような香水の匂いに満ちていた。
おとぎ話にでも出てきそうな、メルヘンチックな店の外観や、どこか不思議な雰囲気のする店内。
それだけでわたしみたいな女でも、奇跡的な何かを期待せずにはいられないものがあったと思う。
店主であろう黒ドレスの女性は、わたしの顔をしげしげと眺めた後、棚から半球体の小瓶を取り出して言った。
「あなたの顔立ちだと、きっとこのガラスのファンデーションが良いと思うの。
これは透明だから派手さはないけれど、清楚でみずみずしい印象を与えてくれるわ」
透明なファンデーションは知っていた。
肌を色で覆うんじゃなくて、どちらかと言うとコーティングするイメージに近く、光の拡散効果を活かして素肌を綺麗に見せるものだ。
コンシーラーで気になる所を抑えたあと、言われるままにサンプル品を試してもらったら、確かになんとなく、肌が艶やかになったように見えなくもなかった。
「これで貴女は今夜のパーティーの主役ね。このガラスのファンデーションで、意中の人が振り向いてくれるかもしれないわよ。
だけど注意してちょうだい。
これはもっても……そうね、ちょうど深夜の0時くらいまでかしら。
それをすぎたら、貴女の魔法は解けてしまうのよ」
塗ったのがお昼過ぎだったから、だいたい12時間ほど肌を保つということらしい。最近じゃあ24時間以上持続するものもザラだけど、まあ、それだけもてば充分だろう。
どうせ最初から、鬱陶しいだけの二次会には、参加するつもりがなかったし──
その時はそんなふうに思い、サンプル品を使っただけで店を出たけれど、今は店主の言った言葉の意味が、ものすごく理解できた。
ファンデーションが、汗で崩れるという意味じゃないんだ。
このガラスのファンデーションは、文字どおり“魔法”なのかもしれない。
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