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考えれば考えるほど、そうとしか思えなくなってきた。
だってあの、みんなの憧れの王子様が、他の女を差し置いてこんな地味な奴のところに来てるんだもの。
そんなものが実際に存在するかどうかは置いといて、彼がわたしに綺麗と言ってくれたのは事実。
それだけでわたしは夢見心地だったけれど、やがてお酒が少し回りだした頃、彼の口から、これは絶対“魔法”で間違いないと確信させる言葉が降って来たんだ。
「灰谷さんて、ずっと1人で食べてたけどさ。もしかして、こういう賑やかな場が苦手なのかな?
いやぁ、僕ももともと、あんまりこういうとこ得意じゃないんだよね。
ねぇ灰谷さん、良かったらさ、どこか静かな店で、2人きりで飲みなおさない?」
青天の霹靂とは、まさにこの事だった。
こんなにも絶大な魔法の威力に、わたしのハートにはメラゾーマが噴き上がっていた。
世間ではいわゆるこういうのを、デートを呼ぶんじゃないのだろうか。
天にも昇る心地。
だけど、わたしみたいな女が魔法の力で尾嶋さんを独占するなんて、嬉しい反面、後ろめたさも感じてしまう。
他の女子達に申し訳なく、顔を上げることができないでいる。
でも──
上目で見上げた尾嶋さんは、やっぱりカッコ良くって……
愛らしくも優しげな笑顔が、わたしの思考回路を、たちまちのうちにとろけさせていって……
そこから先のことは、ずっと頭が沸いていてよく覚えておらず、わたしは笛吹き男に誘われたネズミみたいに、尾嶋さんと夜の街に繰り出していた。
気がついた時には、そこはオシャレなホテルのレストランらしく、眼下には目がくらむような夜景が広がっている。
そしてわたしの対面には、それ以上に眩い尾嶋さんの笑顔があった。
ああ……今この世界の中で、わたし以上に幸せな女がいるだろうか?
ずっと諦めていた。
学生時代、あだ名がオオサンショウウオだったわたしには、こんなステキなひとときなんて絶対にないんだって。
無料のWeb恋愛小説でときめいた後、スマホ画面に映った我が顔を見て、ひっそりと泣いた夜もあった。
ところがどうだろう。レストランは他にお客はおらず、2人だけの世界。
このきらびやかな夜景も、憧れの尾嶋さんも、みんなひとりじめのシンデレラドリーム。
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