23時55分のシンデレラ

6/8
前へ
/8ページ
次へ
. ところで、こんなにオシャレなレストランなのに、どうしてわたし達しかいないんだろう? その疑問を素直に口に出してみたら、尾嶋さんは事も無げにこう答えた。 「ああ、このレストランは、本来この時間はすでに閉店してるんだよ」 「えっ……もう閉まっちゃってるの? じゃあなんでわたし達……」 「心配いらないよ。 実はここ、僕の親族が経営しているホテルでね。 もうすぐ日付が変わるけど、朝までだってゆっくりしてていいんだよ」 わあ、凄い、さすが社長の御曹子! と、手を叩きたくなったところで、その手は突如急変し、バッグの中のスマホを探り出した。 焦って起動させた画面には、23時55分の時刻表示。 あと5分で──“0時”!! (だけど注意してちょうだい。 これはもっても……そうね、ちょうど深夜の0時くらいまでかしら。 それをすぎたら、貴女の魔法は解けてしまうのよ) 黒ドレスの女性の言葉が、電撃のように脳天を貫くと共に、全身から脂汗がドッと吹き出てくる。 ヤバイ、あと5分でわたしにかけられた魔法が解けちゃうっ! いつもの、冴えないわたしに戻っちゃう! 途端に幻滅する尾嶋さんの顔が、凄い速さで脳裏をよぎり、小鹿肉を刺したフォークが中空でガクガクと震えていく。 「あれ、どうしたの灰谷さん? なんだか顔色が悪いけど……?」 「ご、ご、ごめんなさい尾嶋さんっ! わたし帰らなきゃっ!!」 「えっ、どうしたの急に? 明日は休みだよね?」 「い、いやちょっと……! 急に持病のメンヘラがっ……!!」 慌ててバッグを取り、席を離れかけたわたしの腕が、いきなりギュッとつかまれた。 そしてそのまま強い力で引き寄せられ、あっという間に、わたしの体はスーツの胸に埋もれていた。 驚いて顔を上げた先には、息が止まるほどまっすぐな、尾嶋さんの眼差し。 「尾嶋……さん……?」 「灰谷さん、もう少しだけ待ってくれないか? きみに、会って欲しい人がいるんだ」 「……会って……欲しい人?」 「うん、このホテルのオーナー、つまり僕の母親がもうすぐにここに来る。 だからあと少しくらい、いいだろう?」 .
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加