23時55分のシンデレラ

7/8
前へ
/8ページ
次へ
. 尾嶋さんが、わたしをお母さんに紹介する理由── 否定的な可能性をあれこれ並べてみるけれど、彼の今までにない真剣な目が、やっぱりわたしをその結論に引き戻していく。 あまりにも凄絶すぎる魔法の威力に、わたしのハートでイオナズンが大爆発していく。 これってつまり……つまり……つまり……つま……つま……妻? まるで狐につままれたみたいで信じられない話だけど、マジのガチで、このままいけばわたし……将来は社長夫人……? 打ち震えるような感慨に頭がクラクラする一方、もう1人の冷静な自分が、再び水をさしにきていた。 そう、今の尾嶋さんは、ガラスのファンデーションの魔法に惑わされてるだけなんだ。 あと5分後にはその魔法も解けて、わたしはみすぼらしいオオサンショウウオに戻っちゃうんだ。 だけど── こんなわたしだって、子供の頃は絵本のお姫様になりたいなんて、人並みな女の子としての願望はあった。 ブサイクな女には、そんな夢すら見る権利がないなんて、あまりにも不公平すぎるじゃないか。 お願い、神様。 どうせこのまま逃げ帰ったところで、わたしには到底薔薇色の未来なんかないんだもの。 せめてあと5分だけ。 儚くも輝かしい夢に、浸らせて下さい── もう、どうでも良かった。 彼と2人きりでいられる1分1秒を、最後の最後まで無駄にしたくはなかった。 やっぱりわたしは、尾嶋さんが好き。 どう足掻いても無理だと不貞腐れ、後ろばかり向いていた自分にサヨウナラ。 ぶつけよう、ありのままの気持ちを。 追いかけよう、わたしのシンデレラドリームを。 熱をはらんだ瞳で、じっと彼を見つめた。 それに応えるように、わたしを見つめ返す彼の唇が、ゆっくりと近づいてくる。 そのままわたしは吸い込まれるように顎をあげ、そっと瞼を閉じたのだった。 「お待たせぇ、ママリン来たわよぉーーっ!!」 .
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加