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尾嶋さんが、わたしをお母さんに紹介する理由──
否定的な可能性をあれこれ並べてみるけれど、彼の今までにない真剣な目が、やっぱりわたしをその結論に引き戻していく。
あまりにも凄絶すぎる魔法の威力に、わたしのハートでイオナズンが大爆発していく。
これってつまり……つまり……つまり……つま……つま……妻?
まるで狐につままれたみたいで信じられない話だけど、マジのガチで、このままいけばわたし……将来は社長夫人……?
打ち震えるような感慨に頭がクラクラする一方、もう1人の冷静な自分が、再び水をさしにきていた。
そう、今の尾嶋さんは、ガラスのファンデーションの魔法に惑わされてるだけなんだ。
あと5分後にはその魔法も解けて、わたしはみすぼらしいオオサンショウウオに戻っちゃうんだ。
だけど──
こんなわたしだって、子供の頃は絵本のお姫様になりたいなんて、人並みな女の子としての願望はあった。
ブサイクな女には、そんな夢すら見る権利がないなんて、あまりにも不公平すぎるじゃないか。
お願い、神様。
どうせこのまま逃げ帰ったところで、わたしには到底薔薇色の未来なんかないんだもの。
せめてあと5分だけ。
儚くも輝かしい夢に、浸らせて下さい──
もう、どうでも良かった。
彼と2人きりでいられる1分1秒を、最後の最後まで無駄にしたくはなかった。
やっぱりわたしは、尾嶋さんが好き。
どう足掻いても無理だと不貞腐れ、後ろばかり向いていた自分にサヨウナラ。
ぶつけよう、ありのままの気持ちを。
追いかけよう、わたしのシンデレラドリームを。
熱をはらんだ瞳で、じっと彼を見つめた。
それに応えるように、わたしを見つめ返す彼の唇が、ゆっくりと近づいてくる。
そのままわたしは吸い込まれるように顎をあげ、そっと瞼を閉じたのだった。
「お待たせぇ、ママリン来たわよぉーーっ!!」
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