23時55分のシンデレラ

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. 突然静寂を切り裂いた甲高い女性の声に、わたしは弾かれたように振り向いていた。 レストランの入口から、ド派手な化粧のオバチャンが、貴金属をジャラジャラいわせてこっちに歩いてくる。 それが尾崎さんのお母様だということは、考えるまでもなくすぐにわかり、たちまち体が硬直していく。 ちょうどその時、壁にあるアンティークな掛け時計が、長針をまさに頂点に合わせようとしているところだった。 ……5 ……4 ……3 ……2! ……1!! 午前……0時っ!! それは、わたしにかけられた魔法が、一瞬にして解け散った瞬間だった。 「あ、ママリン、こっちだよ! この人がこの前言ってた灰谷さんだよ!」 「えらいねぇ、マチャトシちゃん、ちゃんと連れて来れたねぇ。 でももう、こんなに夜中よ。夜更かししてる悪い子には、オオカミさんが来ちゃうんだからね?」 「だってぇ、僕、ママリンと一緒じゃなきゃ、寂しくて眠れないんだもん」 「あらあら、マチャトシちゃんは、いつまでたっても甘えん坊ね。 じゃあこの後ママリンと一緒に、ホテルのおっきいお風呂入ろっか?」 「うんっ! やったぁーっ!」 口を大きく開きっ放しにしながら、ババアと三十路オッサンのやり取りをしばらく見ていたら、いつしか三十路オッサンの満面の笑みが、わたしへと向けられていた。 「あのね灰谷さん、ママリンのホテルの客室清掃員が1人辞めちゃって、今人手が足りないんだって。 きみはうちの会社にいても……なんていうかいまいち華がないからさ、清掃員くらいならちょうど良いかなって思うんだよね」 3年4ヶ月にわたり、わたしにかけられていた“恋という名の魔法”が解けた直後。 わたしはマチャトシちゃんの脛に思い切り蹴りを入れ、レストランを飛び出していたのだった。 .
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