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朝
夏になると、僕は毎日、炭酸水を飲む。
サイダーやコーラのように、甘味料で華やかな味や香りがつけられたものではなく、無味無臭の、一見ただの水と変わらない、炭酸水を。
ペットボトルのキャップを回すと、しゅ、と息の漏れるような音がする。
口をつけて、透明な液体を、ごくごくと喉に流し込む。舌の上でパチパチと弾ける、二酸化炭素。本来肺から吐き出されていくはずの、目には見えない廃棄物の存在を、喉の奥に痛いほど感じる。鼻先が、溺れた時のように、つんと痺れる。
その感覚は、僕に線香花火を想起させる。自分の肌の下の、真っ暗なふたつの肺の中で、美しい火花が、まるで稲妻のように、暗闇を裂いては消える様を想像する。花火を包み込む、白い手のひらを、思い出す。
空気のように、側にいることが当たり前だった。
透明になっていく彼女の、僕は何を見ていたのだろう。目を凝らしていれば、見えたはずなのに、触れようとすれば、感じたはずなのに、僕は気づけなかった。気づこうともしなかった。
太陽の日差しが溶けた炭酸水は、生ぬるく、お世辞にも美味しいとは言えない。
それでも、透き通るペットボトルの中で、きらきら弾ける細やかな泡は、とても美しかった。
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