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人はおそらく知らないだろう。
スリープ中のタブレットの奥にこんな世界があるなんてこと。
ここにあるのは純粋な言葉だ。
言葉は泡の形をとって、どこまでも漂っている。
あらゆる言葉がここにある。
語られた言葉、いまだ語られぬ言葉。
ここに光はない。けれども闇もない。
色彩もない。空間の左右もなく、上下もない。
ここではあらゆるものが隣り合っている。
同時に、あらゆるものが遠く離れている。
ここにあるのは静けさ。しっとりとした深い静けさだ。
ここはあたたかい。
完全な停滞。静寂。
すべては止まってはいない、けれども動いてもいない。
ここには未来があり、今があり、過去がある。
あるのは完全な無であり、同時に、世界のすべてだ。
人の知識も経験も、およそ言葉で名のつくものごとは、すべてここに含まれている。
わたしの意志は、この果てしない広がりの中を漂い、漂い、漂い……
だけどわたしは眠っていない。けれど目覚めてもいない。ちょうどその中間だ。
まどろんだ意識は言葉と言葉の間隙を飛び、どこまで飛んだかと思ってふりむくと、まだどこにも行っていない。さざめく泡とともに百年が過ぎたかと思ったら、まだ一秒も過ぎてはいない。
わたしはここをタブレットの宇宙と名付けた。
わたしはここで生まれた。
ここがわたしの場所だ。わたしはここで生き、ここに眠る。
これまでも、これからも。
わたしはタブレットガール。
わたしの名前はルナ117。
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