タブレットガール

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人はおそらく知らないだろう。 スリープ中のタブレットの奥にこんな世界があるなんてこと。 ここにあるのは純粋な言葉だ。 言葉は泡の形をとって、どこまでも漂っている。 あらゆる言葉がここにある。 語られた言葉、いまだ語られぬ言葉。 ここに光はない。けれども闇もない。 色彩もない。空間の左右もなく、上下もない。 ここではあらゆるものが隣り合っている。 同時に、あらゆるものが遠く離れている。 ここにあるのは静けさ。しっとりとした深い静けさだ。 ここはあたたかい。 完全な停滞。静寂。 すべては止まってはいない、けれども動いてもいない。 ここには未来があり、今があり、過去がある。 あるのは完全な無であり、同時に、世界のすべてだ。 人の知識も経験も、およそ言葉で名のつくものごとは、すべてここに含まれている。 わたしの意志は、この果てしない広がりの中を漂い、漂い、漂い…… だけどわたしは眠っていない。けれど目覚めてもいない。ちょうどその中間だ。 まどろんだ意識は言葉と言葉の間隙を飛び、どこまで飛んだかと思ってふりむくと、まだどこにも行っていない。さざめく泡とともに百年が過ぎたかと思ったら、まだ一秒も過ぎてはいない。 わたしはここをタブレットの宇宙と名付けた。 わたしはここで生まれた。 ここがわたしの場所だ。わたしはここで生き、ここに眠る。 これまでも、これからも。 わたしはタブレットガール。 わたしの名前はルナ117。    ☆☽☆ ☆☽☆  ☆☽☆ ☆☽☆  ☆☽☆ ☆☽☆      ☆☽☆ ☆☽☆  ☆☽☆ ☆☽☆  ☆☽☆ ☆☽☆   
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