拾伍 別離(わかれ)

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「……で、どうすんです?」 「止めるのは一度までだ。どうしても九条が脅威になるというのなら、その時は俺も止める道理はない。斬り捨てろ」 「そねえな風に言われても今更斬れんわ……」  田川は地元の言葉でふてくされながら刀を鞘に収めた。九条は黙ったままだ。  その目は何故助けたのだと訴えている。だが、本田は答えなかった。 「九条、帰れ。もう二度と顔を見せるな。どっちつかずになるくらいなら、いっそどちらにも顔を出さない方がお前のためだぞ」 「……その通りですね。短い間でしたが、お世話になりました」  九条は深々と頭を下げ、出ていった。嫌な沈黙だけ残った。田川は少し外の空気を吸ってくると外に出ていった。  本田は黙ったままのローレンスに礼を言った。 「ローレンス、さっきは助かった。お主が私の味方をしてくれたから、田川も冷静になって素直にひいてくれた。礼を言う」 「俺は俺の仕事をしたまでだ。礼を言われるほどじゃない」  ローレンスは噛みタバコを口に入れ、噛みながら呟いた。 「それより、外国人の俺がこんなことを言うのはおかしいかもしれないが……」 「なんだ?」 「幕府も政府も土御門靖明も……みんな日本のことを考えているのだろう? なのに、何故お互いに争ってばかりいるのだろうな……」 「……そうだな。やはり日本人は、欧米より大幅に遅れているのかもしれないな」  しんみりとする本田にローレンスはタバコを勧めた。  最初は断ったが、なんだかんだ好奇心に負けておっかなびっくり口に入れて噛んでみた。甘いような苦いようなスッとする感じもする。 「おかしな味だ……」 「吸い終わったら吸い殻と唾液は吐き出す。日本だと屋内に吐いてはいけないらしいから窓から吐き捨てろ」 「えええっ?! 向こうでは屋内で吐き捨てておるのか?!」 「基本的には痰壷に吐くが、なければ床や廊下に吐く。普通だぞ?」 「…………」  欧米の方が確かに進んでいるのだが、どうもついていけない文化があると本田は思った。  少しだけ緊張がほぐれたのか、本田はローレンスに向かってぎこちなく笑みを返した。
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