36人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっと、じゃあ……」
自分のお弁当から、ピックのついたエビのフリッターを先輩のお弁当箱に入れ、代わりに先輩がよけた人参を箸で奪いとる。
「交換てことで」
「あ、いや、でも……」
先輩がなにか言う前に、人参はわたしの口の中へと消えた。甘辛でおいしい。
「先輩のお母さん、お料理上手ですね」
「……気にならないんですか?」
「なにがですか?」
「……いえ、わからないならいいです、はい」
気になる? なにが? 先輩の耳がほんのりと赤い。それに気付き、わたしは自分がしてしまったことの大胆さに顔が熱くなる。箸で人参をよけていたということは、その箸で先輩は食べていたわけで――だからこそわたしはわざわざピックのついたフリッターを選んだわけで……。
「先輩」
「なんですか」
「そういうことは、もう少し早く言っていただくか、言わないでいてくれたら助かります……」
「え……おれのせい?」
「あっ、いや、そういうんじゃなくて……わたし、ちょっと抜けているところがあるので」
「抜けている……天然ですか?」
「……違います」
「ふ……天然の人は必ず違うって言いますね」
くすくすと先輩が笑っている。肩が揺れ、髪が風に揺れ、空気はどこまでもおだやかに凪いでいる。好きだなぁ。そう思いながら、フリッターを口に放りこんだ。
最初のコメントを投稿しよう!