36人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、そういう時は染めるんですか? スプレーとか?」
「そういう時は……休みます」
休む。その極端さに、こらえきれず吹きだしてしまう。変わった人だとは思っていたけれど、それはわたしの想像をはるかに超えていたようだ。
「……座って食べましょう。ここ、扉の前。こっちからは鍵がかけられないので、誰かきた時のための対策です」
そう言って先輩は扉に背中を預けるようにして座り、わたしが座ろうとすると「待って」と、例のチェック柄の包みをサッと地面に敷いてくれた。
「いいんですか?」
「はい。その……女の子は冷えるといけませんし、スカートが汚れたら嫌でしょう?」
「先輩って紳士なんですね。ライオンて呼ばれてるのが嘘みたい」
お礼を言って隣に座ると、先輩は「紳士……」と納得のいかない顔をしていた。やっぱり先輩といると心が凪ぐ。さっきは少し緊張したけれど、話しているとおだやかな気分になるから不思議だ。
「先輩はどうして屋上で?」
「……クラスのみなさんは、とても親切ですけど……ひとりの時間もほしいです」
「あ……わたし、じゃまでしたよね?」
「あ、いえ……佐渡さんは……大丈夫です、はい」
「……そうですか」
「はい。そうです」
佐渡さんは大丈夫……それは一体どういう意味だろう? わたしが感じているように、先輩もわたしとは緊張しないとか、落ち着くってことかな。そうだといいな。だって、先輩はきっとすごく繊細だ。ひとりの時間もほしいというのは、単に先輩がひとりになりたいというだけの意味ではなく、クラスメイトに余計な気を遣わせたくないって気持ちもあるんじゃないかなと思う。
最初のコメントを投稿しよう!