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八時二十分――。
今朝も垣内先輩は青いサンダルをひきずるようにして歩きながら、階段へと続く廊下を気だるそうに歩いている。金色の髪は先輩の名前の通り、まるでライオンのたてがみのようだ。先輩の名前は『礼恩』と書いて『らいお』と読む。だけど、礼とか恩とかその漢字にはまったくそぐわない見た目から、ライオンと呼ばれている。
いつもわたしは、垣内先輩が登校する時間になると廊下にでて、先輩が目の前を通りすぎていくのをただ見ている。声をかける勇気は……ない。だって先輩はモテる。先輩は三年生だけれど、ちょっと訳ありで同級生よりも年齢はひとつ年上だ。無気力で気だるそうな雰囲気、留年しているという秘密めいた影――それが、女生徒のハートをわしづかみにしているといっても過言ではなく、現にわたしもそのうちのひとり。
だから先輩のことを好きな女子はたくさんいて、非公認のファンクラブまで存在する。そして、そのファンクラブを取り仕切っているのが、三年生の鳥山明日香さん。詳しくは知らないけれど、明日香先輩に睨まれると面倒なことになるらしい。
――まぁ、どっちにしても垣内先輩はわたしなんか相手にしないだろうしなぁ……。
今のところ、わたしは毎朝先輩の姿を見るだけで満足している。恋というよりは憧れに近い。今日も垣内先輩は素敵だった。毎日、毎朝、そう思えるだけで幸せだったはずなのに――。
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