2.わたしとライオンとピンク

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「……一年生ですか?」 「はい」 「あー……えーと、名前は……」 「佐渡です。佐渡(さわたり)秋華(しゅうか)」 「サワタリさん……あー、おれは」 「知ってます」 「……ライオンじゃないよ?」 「ふふ、はい。らいお先輩」  不思議と緊張はしなかった。先輩は見た目こそ不良っぽいけれど、身にまとう空気感がとてもやわらかで、いい意味で気が抜けている。ぽそぽそと話す少し掠れた声も、鼓膜に優しく響いてくる。 「あ、先輩。早く行かないと遅れちゃいますよ」  せっかく早くきたのにまた遅刻扱いになってしまう。先輩はうんと頷いてから、なにかを思い出したかのようにポケットから手をだした。 「あげる」 「え……」  わたしに向けられた手のひら。長方形の鮮やかなピンク。戸惑うわたしを見て先輩はそれをすっとわたしの胸ポケットへと滑りこませた。そして「またね」とひらひら手を振って、珍しく少しだけ足早に階段へと向かっていった……。
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