2.わたしとライオンとピンク

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 またね、かぁ……。  きっとあまり深い意味はない。花器を選びながらそんなことを考える。 「佐渡さん、決まった?」 「あ、はい」  いけないいけない。今日は週に一度の生け花クラブの日。この高校では部活かクラブか必ずどちらかへの入部が義務付けられていて、部活動は毎日だけれどクラブ活動は週に一度だけ。中学生の時はテニス部に所属していたけれど、高校に入ってからも続けたいとは思えず、週に一度で済むクラブ活動のほうを選択した。  テーブルに置かれた花を見てハッとする。菊にコスモス、それからリンドウ……もうすっかり秋なのだと今さら。それもそうだ。もう十月。つい最近までは残暑が厳しくて汗をかいていたのに、今日は肌寒く感じる。入学して半年がすぎたということは、あと半年後には先輩は卒業してしまうということだ。そんな当たり前のことに今さら気付いて、胸がきゅっとなる。  卒業したら先輩はどうするんだろう? 進学……するようには見えないし、働く姿も想像できない。わたしはなにも先輩のことを知らないんだなと悲しくなる。わたしが知っていることといえば、名前や誕生日といった基本データだけで、垣内礼恩という人のことはなにも知っていないも同然だ。
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