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「佐渡さん? どうしたの? 具合でも悪い?」
クラブの担任が心配そうにわたしを見ている。
「大丈夫です」
「でも、あなた……泣いてるじゃない」
泣いてる? わたしが? そう指摘され頬に手をあててみると、確かにそこは濡れていた。おかしい。花粉でも目に入ったのだろうか。先輩のことを考えて泣くとかどうかしている。
「花粉が……目に入ったみたいで……すみません。顔を洗ってきます」
逃げるように教室をでて近くのトイレへと駆け込む。個室に入り鍵をかけ、大きく息を吐きだす。苦しい。どうしてこんなに苦しいんだろう。単なる憧れの対象だった先輩と、うっかり言葉を交わしてしまったせいで、憧れはあっという間に――恋へとのみこまれてしまったんだ。
恋。そうだ。今朝、先輩がくれたビビッドなピンク。あの色があの匂いがわたしの胸ポケットへと入った瞬間に、心まで同じ色に染まってしまったんだろう。
胸ポケットからそれを取りだしてみる。梅ガム。ビビッドなピンクは先輩には似合わないけれど、梅という渋い選択がいかにも先輩らしい。
――好きだと思う。
わたしは、垣内先輩が好きだ。
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