プロローグ

2/5
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
──ヒーローなんてものはいないんだ。 初めてそう思ったのは四歳の頃。ヒーローが父を捕まえに来た時、俺は「見るな」と言われたが音もたてずに扉をそっと開けて部屋を覗いてみた。 そこで見たのは、父から賄賂を貰ってるヒーローの姿でその顔はヒーローではなかった。 それから俺はヒーローも人間も嫌いになった。 毎日のように家に訪れる色んな人々は父の書斎に入って、数時間で出て行く。俺はその間、自分の部屋から出てはいけないとキツく言われていた。 そして夜になれば父は俺に勉強をさせ、暇がある時は運動をさせられた。自分の意思は関係なく。 そんな時、家に強盗が入った。 俺は使用人かと思って父の書斎に入ったがそこに居たのは見知らぬ他人で──幼かった俺は強盗がまるで化け物のように見えていて、気付けば手には真っ赤な血がついていた。そして俺は血も落とさず父の寝室に行き殺してしまったと告白した。 その時限り父は優しくて無言で俺を中に入れると血を拭きながら「お前は悪くない」と言った。 そして次の日から父は俺に厳しくなった。 頭脳も運動神経も必要になる『ある仕事』の為と運動や勉強をさせられ、その練習の度に死ぬ思いをした。それでも父に従ったのは何でなんだろう。 『ある仕事』それはスパイになる為の訓練。 十歳の誕生日にもらったのはケーキでも洋服でもぬいぐるみでもなく、裏で最近有名になってきたという殺し屋を子供もろとも殺すという任務だ。 俺はその任務をきっかけにして父を憎んで憎んで憎んで、何度も何度も殺そうとした。 そしてそれを実行して殺したのは十五歳の誕生日の時でその頃には心が死んでしまっており、人を殺すという事に何の躊躇も罪悪感もなかった。 殺す相手が死ぬほど嫌いな父親だったら尚更で、むしろ俺は喜んで実の父親を殺した。 捕まらなかったのかって? ああ、これがまた不思議なんだよな。 俺の父は世界で一番上の立場だと言われてる天皇陛下とやらと同じくらいの権力と金を持つ存在だったらしい。俺も前は跡継ぎだったと後々聞いた。 どんな仕事をしているのか聞いてみたが父は俺に教える事を拒んだ。テレビもパソコンもスマホも外の世界と関わる事を禁じ俺を家に縛り付けた。 ・・・・・・話がズレたな。 ともかく俺の父は本当に凄い人だったようで父が死ぬと家に弁護士が来て父の腹心と話をしてた。 俺は父を殺して何日も引きこもっていたから何があったのかは知らない。だが気付いた頃には全て終わっていて、お金も、家も、そのままだった。 父の腹心に色々と聞いてはみたが彼は「なにも心配しないでお任せ下さい」としか言ってくれない。 まぁ、そんな事がありながらも、ずっと俺の傍で支えてきてくれた凄く優秀な男が一人だけ居る。 彼の名前はエドワード・ペレス。通称『エド』。 父の腹心であり俺の世話係?のような立場の奴で真面目で優しい性格だ。まぁ、困る時もあるが。 「ヴィル様、お食事の準備が完了しました」 目の前に置かれたのは最高のトーストと、最高の野菜ジュース。その脇には紅茶のカップもある。 俺は小さく溜息をつきながら紅茶を眺めた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!