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くすんだ茶色ではなく明るく透明な茶色で香りは高い。もちろん紅茶の葉自体、えらばれたおいしい葉ではあるのだが、いれ方が違うのだ。
エドのいれる紅茶は絶品。お世辞抜きで、万人が喜ぶ美味しさだが、俺は、俺だけは違う。
何度目かの溜息をついてエドを睨みつける。
「・・・・・・紅茶は嫌いだと言ったはずだが」
「飲みたくないのなら飲まなくて結構、飲みたい時ほんの少しでも飲んでくだされば良いのです」
「毎朝毎朝、カップの無駄遣いをして馬鹿だな」
父を殺した時にがぶりと飲んだ冷たい紅茶の味を覚えている。舌にのりあげた苦い粉、そのときの高級なカップの柄、スプーンについている高級な小さな金色の帽子の細工のくだらなさも。
それからエドの紅茶が飲めなくなった。
子供の頃から美味しい美味しいと飲んでいたのに父を殺した時から嘘のように美味しくなくなった。
それからは事前にいらないと言っているのに何を考えているのかコイツは毎朝毎朝だしてくる。
とはいえ、それ以外の料理は絶品のまま。
特にこのトーストやクッキーは美味しくて、朝はこの二つを食べないとやる気がでないほど。
最初はほんのちょっとだけ抵抗の気配を見せてたバターの塊が、熱で急に他愛もなく溶けていき、パンの小さな凹みという凹みに染み込んでいく。
バターを塗られたパンをエドから受け取って口の中に入れれば、ふわっと味が広がった。
濃厚なバターの味、パンに染み込んで一体となるパンとバターの味、そしてその下の、少し湿り気をおびたパンの味、最終的に口の中はバターの脂にまみれる。これでは口が気持ち悪いままだ。
そこで野菜ジュースというものがある。
初めは俺の野菜嫌いを知って克服させようとしたエドが用意したが、これがまたトーストに合う。
「ヴィル様、本当にあの件を受ける気で?」
「あの話?薄汚いヒーローになるって話なら本当に受ける気だが。その件に何か問題でもあるのか?」
そう、俺はヒーローになる。
・・・・・・と言ってもヒーローという職業を潰す為でヒーロー業界に入りどこまで腐ってるか確認して証拠を集めるため。それ以上でも以下でもない。
だが万が一にでもヒーロー業界がまだマトモだと言うのなら潰すのは後回しにしても良いだろう。
まぁ、それはないだろうけどな。
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