愛別離苦に満ちる

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 『ねぇ,僕はお母さんと妹を助けることができたの?』  転がる頭が視界を狭め,ゆっくりと閉じてゆく目蓋(まぶた)の向こうで泣き崩れる父親と妹を見ながら,何度も何度も問いかけたが誰も僕には応えてくれなかった。その光景を見て,僕自身死ぬのかもしれないという恐怖に包まれ,意識のあるうちに二人に抱きしめて欲しいと願った。  『ねぇ,僕は死んじゃうの? 死にたくないよ……』  泣き崩れる二人の悲鳴にも似た声を聞きながら,薄れゆく意識のなかで何度も問いかけた。  『ねぇ,僕は死んじゃうの? やだよ……怖いよ……』  まるで時間が止まったかのように二人を見ている自分がいるのと,ゆっくりと視界が狭くなっていく自分自身を他人事のように冷静に見ている自分に気がついていた。 『ねぇ,まだやりたいことがいっぱいあったのに,助けて……お父さん……お願いだから助けてよ……』  泣き叫ぶ二人に触れることもできなまま,僕の視界はゆっくりと狭まってゆき,やがて真っ暗になった。家族がどうなったのかもわからないまま,僕は暗闇の中に一人ぼっちで家族の名前を呼ぶことも,誰かに触れられることもなく深い深い闇に堕ちていった。唯一理解できたのが,僕はもう死ぬことと,家族がバラバラになってしまったことだった。 『怖い……怖いよ……一人ぼっちにしないでよ……』
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