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夜明け前の薄暗い歩道を,視界を遮るように女子高生の日焼けした脚が次から次へと通り過ぎて行った。ほどよく筋肉のついた健康的な脚は,短いスカートから真っすぐ伸び,引き締まった脹脛に力強さを感じた。
蝉が浅い眠りから覚め,狂ったように鳴きはじめる頃には,すでに二十人以上の女子高生の脚が目の前を通り過ぎて行ったが,どの脚も太ましく,すり傷の目立つ膝は真面目に部活動を頑張っている姿が想像できた。
夏休みに入ってからは,女子高生たちは夜の空気がまだ残る早朝から大きなバッグを背負い,前かがみになって駅へと向かっていた。朝の湿った風は夜の臭いを微かに運んでくるが,彼女たちにはそんなことは無関係だった。それよりも通学路にある澱んだ流れのない川が発する,腐敗臭のような臭いに耐えられない子のほうが多かった。
まれに哀惜の念が入り交じる,幽愁の臭いが残る朝の異質な空気に反応する子もいたが,そんな子は皆,自らを守るように気づかない振りをした。なかには空気が変わったことに反応し,どこから風がくるのか無意識に探す子もいて,数は少ないが僕の存在に気がつく子もいた。
曖昧な記憶と途切れ途切れの意識のなかで,僕はずっと言葉もなくそこにいた。ずっと同じ場所にいる僕は,名前こそ知らないが目の前を通り過ぎてゆく女子高生たちの脚と顔を覚えた。何年かに一人,空気の変化とともに僕を認識する子が感じられたが,お互いに視線を合わせることはなかった。それでも僕の意識は,確実にそういった女の子の中へと染み込んでいった。
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