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伯崇と翼は意気揚々と列の最後尾に移動した。
子供達の腕が悪いのか、ライフルに模した銃に何か特別な仕掛けでもあるのか、前に並んだ子供達は次々と撃沈して行った。行列だったわりには回転が早い。伯崇はワクワクした気持ちを損なうことなく自分の番を迎えられた。
「よく狙ってから撃つんだよ」
「分かってるよ、任せとけ! 翼の分まで取ってやるからな!」
ずっしりと重い木と鉄で出来た長い銃を両手で持ち上げ、先端にコルクをはめる。構えて、狙って、約一秒。
「くらえっ」
パーン! と乾いた音を立てながら伯崇の銃からコルクが飛んで行った。それは見事に、景品と景品の間を通り抜けて背景の垂れ幕にぶつかって落ちた。
「はい残念。次の子どうぞ」
店主の笑顔がタヌキに似ていた。きっと銃が悪かったんだ。あいつが細工したに違いない。翼が失敗して戻ってきたらそう言って互いに慰め合おうと思った時だった。
「おめでとう! コアラのマーチ、大当たり!」
翼が撃ち終えた銃を構えたまま呆然と伯崇を振り向いた。どうやら翼が景品のお菓子を見事に当てたらしかった。
「す、すげえ! もう一回だ、翼。もう一回!」
「う、うん」
翼は伯崇と違って慎重に的を狙い、二発目もスヌーピーのトランプを撃ち倒した。二度あることは三度と続き、またも翼は難しい位置にあったシャボン玉の小瓶を倒した。
「これ……面白い!」
翼の笑顔がソーダ水のように煌めく。
「いいぞ翼! 次は3DSだ!」
翼ならやれる。翼には射的の才能があったんだ。ボクにも得意なことがあったらいいのになと翼が呟いていたのを、神社の神様が聞いてくれていたに違いない。
手に汗を握りながら、伯崇は本気でそう思った。
だが、伯崇と翼が本命と目するニンテンドー3DSの的は一番上の段にある。高くて、遠くて、そのうえ的が米粒のように小さく見えた。翼が本気になって狙いを定める時間もその分長くなる。
そのうちに、後ろに並んでいた小学生たちがイライラとし始めた。
「おせーな。いつまで狙ってんだ。早くしろよ」
彼らの声に、伯崇は自分が文句を言われたかのように頭が沸騰しそうになった。
「うるせえ、黙ってろ!」って言ってやりたかったけど、翼の集中力が乱れてしまうから、伯崇は声を殺してじっと我慢した。
やがて、パン、と乾いた音がした。
やっと放った翼の一発は、惜しくも狙っていた的の真下の棚に弾かれていた。
「……遅くなってごめんなさい」
翼はうつむきながら次の小学生に謝った。すると、そいつは舌打ちをしながら言った。
「女のくせに、3DSを狙うなんて生意気なんだよ」
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