10杯目 帰郷酒 ~エールビール~

10/12
153人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
「酒と言えば茨木、このビールめちゃくちゃ美味いな! これ、ポーターか?」  口の周りにでろんと泡をつけて童子に、茨木童子は「そうです。童子様はこれ、気に入ると思ったんですよ」と紙ナプキンを渡す。 「なあ、ポーターってのもエールビールの一種なのか? 黒ビールだよな?」  茨木童子に顔を向けながら冷えたグラスをクッと傾ける。コーヒーのような香ばしい香りと、昨日飲んだIPAに近い苦味が鼻と喉を刺激した。 「ええ、そうですよ、春見さん。ポーターは黒ビールです。歴史は割と古くて、18世紀にイギリスで生まれてます。茶色麦芽を焙煎してるんで、芳香と苦さが特徴ですよね」 「うん、確かにこれは香りと味のギャップが面白い」 「ちなみに語源ですけど、ロンドン市内まで運ばれた品物を市内に配送していたポーターと呼ばれる人々が好んで飲んだのが由来らしいです」 「ポーター……あっ、なるほど! ホテルで荷物運ぶポーターと一緒か!」  楽しそうに首肯する茨木童子。自分の知ってる知識と文化が意外なところで結びつく。酒ってこういうところが面白いな。 「さて、次のビールを飲みましょう。童子様、ボクのオススメでいいですか?」 「おう、ガンガン飲もうぜ」  こうしてグラスを重ねる。  そして予想通りというか予定通りというか、酒癖の悪い美青年が1人出来上がった。 「ふいい、童子様とお別れするときは、いつも心配れすよ」
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!