1杯目 出会い酒 ~レモンサワー~

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【前編:マンション前に、彼はいた】 『定時であがれたから、ラーメン屋で発泡酒飲んで、漫喫行ってきた。気になってたDystopia Gate一気読み』  駅に向かいながら送ると、澄果(すみか)からすぐにスタンプが届き、続けて写真と返信メッセージが来た。 『花金らしくていいね! こっちは高校の友達とチーズフォンデュ』 『何それ羨ましい。俺もいつか行きたい。楽しんどいで』 『ありがと。次のご飯の場所、後で決めようね! まったねー!』  スマホをジャケットのポケットにしまう。  まだ9月下旬とはいえ、例年の残暑の気配はなく、夜はYシャツだと肌寒いくらい。改札をくぐる女性も、秋色のコーディネートが目立つ。 『doping robot 新曲』  動画を検索して、イヤホンをはめる。酔っ払いの増えた電車の喧騒も気にならない、自分だけの世界がLとRから流れた。  会社員の一人暮らし、予定のない金曜は、自由で気楽だ。  明日から休みという解放感、夜まで自由に過ごしても良い背徳感、その全部が自分の中でふわふわと舞い上がり、心と足取りを軽くする。  特にオタクってわけでもないけど、漫喫に行ってリクライニングでゆっくり漫画を読むのも、3時間1000円の手頃な幸せ。  春見(はるみ)夕晴(ゆうせい)、30才。いっぱしに社会人、やってます。
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