1杯目 出会い酒 ~レモンサワー~

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「今日は歩いてみる、か」  最寄りの一駅手前で降り、誰に聞かせるわけでもなく呟く。  大学生の頃は、たまに都内に遊びに来るとしても若者の街で洋服買うかチェーンの飲み屋に行くばかりで、人の多さとビルの多さしか印象になかった。  でもこうして住んでみると、洗練された自然が多いことにも気づく。夜のジョギングをしてる人とすれ違いながら、川沿いを散歩して家に向かった。 「よし、もういっちょ飲むとするか!」  発泡酒も手伝い、マンションが見えたところで、ついテンションが上がって宣言してしまう。 「いやあ、金曜は最高——」  そこで、続きの言葉は音を無くした。  マンションのエントランスの前にある、円筒形で囲われた小さな空きスペース。見た目20歳くらいの、男子がそこに腰掛けて、500mlペットボトルより大きい酒瓶からお猪口に酒を注いでいた。  服装は白い着物。足の方を見る限り、袴ではなさそう。裾の方はややグレーになっていて、波か蔓のように渦を巻いた金縁の模様がついている。  足元は靴ではなく、白い足袋と畳のような素材の雪駄(せった)。横には、麻の葉のような六角形模様が入った若葉色の風呂敷を置いていた。 「………………」  目があったが、黙ったまま軽く会釈してオートロックの入口に入る。  こんな場所であんな格好で酒を飲んでるなんて、絶対普通の人じゃない。変に絡まない方が身のためだ。  エレベーターで4を押し、緊張が解けて大きく息を吐いた。 「綺っ……麗な顔だったなあ」  そう、おそらく男子、と言ったのもそれが理由。  イケメンという言葉では表現しきれない、やや浮世離れした感のある美少年。黒髪と着物は日本人っぽいが、顔立ちは10代後半の海外ハリウッド女優のよう。  そんな子がマンションの入口でまったりと(さかずき)を傾けているのは、妖しい魅力を纏った不思議な光景だった。
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