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部屋に入って時計を見ると22時半。あと3~4時間は好きに過ごせて、明日は何時に起きてもいいという幸福に、心は夏休み中の子どものように浮かれる。
部屋着に着替えてから1本発泡酒を開け、寝室のベッドにスマホと一緒に飛び込んだ。
駅から少し遠いけど、そのおかげで1LDKに住めたし、念願のダブルベッドに替えられたと思えば、徒歩13分の距離なんて運動の時間と前向きに捉えられる。
SNSを見て、WEBの漫画を読んで、海外ドラマを1話見て、今度行くデートの場所を探す。
バズってる動画を見たりして、敢えて時間を無駄に使うのが堪らなく贅沢。
「……よし、夜食食べちゃおう!」
ここで更なる贅沢の重ね掛け。
料理の作り置きはないし、太るとか気にしたくないし、お酒だってもう少し飲みたいし、外に買いに行くことにした。徒歩2分にコンビニがあるのは、1人暮らし男子にとっては理想の環境。
そうしてエントランスを出て、小さく声を漏らしてしまった。
「あ…………」
さっきの美少年がいる。まだ酒を飲んでいる。
ちょっと待て、あれから2時間は経ってるぞ。
瓶も多分さっきとは違う。ってことは、ここでずっと飲み続けてるってことか。
なんだろう、ここの住人とケンカして追い出されたりしてるのかな? ひょっとして家出? いわゆる神待ちってやつか? いや、そんなヤツが酒を飲んだりしないだろう。
一瞬だけ目が合ったけど、不思議な印象だったな。楽しそうに酒を飲んでるように見えた。
見えたけど、何故だかどこか寂しそうな雰囲気も持ち合わせている。大丈夫だろうか、自死とか考えていないか。
あれこれ思考を巡らせながらコンビニで買い物。
いちおう健康を考えて、弁当ではなくサラダチキンにした。
レモンサワーのロング缶2本とチー鱈も買って、プシュッと缶を開けながら帰る。
そこで、鍵を取り出す前に。
「……どうしたんですか? 締め出されちゃった、とか?」
アルコールを注入した勢いで、声をかけてしまった。
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