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座って飲んでいた彼は、フッとこちらを見上げる。切れ長で、それでいてぱっちりとした奥二重の目に、同性と言えど軽く息を飲んだ。
「ああ、泊まる場所ねーんだ、僕」
中性的な声で笑う。言葉遣いは、今の若い子っぽい。それにしても本当に綺麗な顔――
「ねえ、泊めてくんねーか? 体貸してあげるからさ」
「なっ……なん……っ!」
ニヤニヤとこっちを見る彼に、動揺で顔が熱くなる。
なんだこいつ、そういうビジネスか? いや、何はともあれまずは断らないと……。
「いや、その、俺、彼女、いるから……」
しどろもどろの返答に、彼は「くはっ!」と再び笑った。
「悪いな、もともとそういう趣味はねーよ。体の件は冗談だけど、泊まるところがねーのはホントなんだ。さすがにこの時間になってくると、この恰好じゃ寒いな」
ちょうど空になったらしい2本目の酒瓶をビニール袋にしまい、彼はゆっくりと立ち上がる。俺より10センチ以上低い、160代前半くらいの小柄な青年。
髪型も中性的な、黒髪のショートボブ。かなり漉いてる前髪から綺麗なおでこと細い眉がチラリと見える。
「何もしねーから、今日だけ泊めてくれよ。晩酌の話相手くらいしてやるからさ」
開いてる缶を指され、体云々の会話のせいで軽く頭がフリーズしていた俺の口が、勝手に開く。
「え、あ……お、おう。寒い……しな」
そしてこの選択が、俺の人生を、少しだけ不思議なものに変えていく。
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