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「へえ、結構広い部屋だな」
先に俺がリビングに入ってローテーブルにコンビニ袋を置き、続いて彼がリング状の持ち手をつけた風呂敷を提げて入ってくる。
適当に座って、と促す前に、ソファにバフッと飛び込んだ。
「ここで過ごせるなら十分だ。ありがとな、えっと、名前……?」
「春見夕晴だ」
「ユーセイな、助かったぜ」
首をぐいっと持ち上げ、ニイッと笑う。
端正な顔立ちの分、こうして相好を崩すと、ギャップすごい。並の女子なら瞬殺じゃないだろうか。
「お前の名前も聞いて――」
「なあ、喉渇いた。酒が飲みたい」
「今まで飲んでただろ」
俺の話を遮って酒を要求する彼に呆れながら返す。こいつ、相当な呑み助だな……。
「なんか入ってる?」
「おいこら、勝手に開けるな」
軽快なステップで冷蔵庫の扉を開け、すぐにソファを奪還した俺の方を見て落胆する。
「ドレッシングとお茶しか入ってねーぞ」
「だからさっき買ってきたんだっての」
「あ、開いてないのあるじゃねーか! 僕にも飲ませろよ」
「ったく、仕方ないな……」
意気揚々と彼が持ってきたグラスに、2本目のロング缶を開けて注ぐ。
俺の手元には、まだかなり残っている1本目の缶。
「それじゃあ、ユーセイとの出会いに乾杯!」
「……よく分からないけど、乾杯」
缶とグラスをぶつける。カツンと軽い音が部屋に響いた。
夕飯のラーメンで脂っこくなっていた口をスッキリさせるレモンサワー。
果汁の風味が強くて、アルコール感が少ない。飲んだ後に鼻から抜ける酸味も心地いい。
「おおっ、なかなか美味い酒だな。レモンの渋みもちゃんと出てるから、単純に酸っぱくて甘いだけじゃないね」
あっという間にグラスを干し、お替りを注ごうとしている彼に、俺はふと気になることを聞いてみた。
「お前さ、未成年じゃないのか」
その質問に、「いいや」と真顔で首を振る。
「1000歳くらいじゃん。詳しく覚えてねーや」
「何だよそれ」
酔ったうえでの冗談かと思って苦笑した俺をまっすぐ見ながら、彼は口を開いた。
「僕、酒呑童子なんだよね」
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