1杯目 出会い酒 ~レモンサワー~

6/12
前へ
/175ページ
次へ
「へえ、結構広い部屋だな」  先に俺がリビングに入ってローテーブルにコンビニ袋を置き、続いて彼がリング状の持ち手をつけた風呂敷を提げて入ってくる。  適当に座って、と促す前に、ソファにバフッと飛び込んだ。 「ここで過ごせるなら十分だ。ありがとな、えっと、名前……?」 「春見(はるみ)夕晴(ゆうせい)だ」 「ユーセイな、助かったぜ」  首をぐいっと持ち上げ、ニイッと笑う。  端正な顔立ちの分、こうして相好を崩すと、ギャップすごい。並の女子なら瞬殺じゃないだろうか。 「お前の名前も聞いて――」 「なあ、喉渇いた。酒が飲みたい」 「今まで飲んでただろ」  俺の話を遮って酒を要求する彼に呆れながら返す。こいつ、相当な呑み助だな……。 「なんか入ってる?」 「おいこら、勝手に開けるな」  軽快なステップで冷蔵庫の扉を開け、すぐにソファを奪還した俺の方を見て落胆する。 「ドレッシングとお茶しか入ってねーぞ」 「だからさっき買ってきたんだっての」 「あ、開いてないのあるじゃねーか! 僕にも飲ませろよ」 「ったく、仕方ないな……」  意気揚々と彼が持ってきたグラスに、2本目のロング缶を開けて注ぐ。  俺の手元には、まだかなり残っている1本目の缶。 「それじゃあ、ユーセイとの出会いに乾杯!」 「……よく分からないけど、乾杯」  缶とグラスをぶつける。カツンと軽い音が部屋に響いた。  夕飯のラーメンで脂っこくなっていた口をスッキリさせるレモンサワー。  果汁の風味が強くて、アルコール感が少ない。飲んだ後に鼻から抜ける酸味も心地いい。 「おおっ、なかなか美味い酒だな。レモンの渋みもちゃんと出てるから、単純に酸っぱくて甘いだけじゃないね」  あっという間にグラスを干し、お替りを注ごうとしている彼に、俺はふと気になることを聞いてみた。 「お前さ、未成年じゃないのか」  その質問に、「いいや」と真顔で首を振る。 「1000歳くらいじゃん。詳しく覚えてねーや」 「何だよそれ」  酔ったうえでの冗談かと思って苦笑した俺をまっすぐ見ながら、彼は口を開いた。 「僕、酒呑童子なんだよね」
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

154人が本棚に入れています
本棚に追加