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特攻服がボタンからファスナーになった理由
「......ところでさぁ」
「うん?」
「なんで俺達の特攻服ってファスナーなんだ?普通、ボタンじゃねぇ?」
「......あ~、それね?」
特攻服の解れを直しに未の元を訪れた酉の何気ない質問に、未は裁縫の手を止めた。
遡る事、6年ほど前。あれは、辰が入隊してきた日の事である。
「...じゃあ、今日からよろしくな」
「......あぁ」
寅から特攻服を受け取った辰が小さく頷くと、寅の陰にいた未が「ふぅん」と呟いた。
「何か強そうな人だね」
「あ?あぁ、つえぇだろうな。順番的に辰部隊だし」
「辰かあ......神話上の生き物だしどうなんだろ」
「......そこって関係あんのか?」
未の言葉に、寅が笑った。
神話上だろうが何だろうが、強ければいい。暴走族とは、そういうものである。
(......まぁ、本当はカリスマ性とかもなきゃダメなんだけどな)
「んっ、ぐ......いぎぎぎっ、」
寅がそんな事を考えていると、辰の呻き声が聞こえた。未と2人で声の方を見れば、辰が特攻服の前を閉めようと必死になっているではないか。
「...何してんだ?」
「......前が閉まらんのだ」
「...は?」
辰の言葉に首を傾げると、辰が特攻服を千切らんばかりの勢いで前に引っ張り、無理矢理にボタンを留めた。
「......ふぅっ、ふぅっ...」
「おー、良かった留まったじゃねっ...」
「寅!?え!?何!?はぁっ!!??」
ボタンが留まった事に安心した...次の瞬間。
寅の頭が何かに撃たれたように大きく揺れ、寅はそのまま後ろへ倒れてしまった。
「......すまん、俺のせいで...」
「...この胸筋オバケ!!」
謝罪する辰の胸元にあったはずのボタンはなく、代わりに寅の顔面にめり込んでいた。
...それからしばらくして、十二支連合の特攻服は、ボタンではなくファスナーになったのである。
「...ていうわけ」
「......へぇ~?」
「辰ってあんなんで乳デカかったのな」と、酉が頭の悪い事を言った。
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