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ある日の事
「視察、ですか?」
「そ。今年も新人引っ張らなきゃね」
十二支連合の人員確保は、少年院の視察から始まる。
初めての事に目を丸くする五十嵐の横で、巳部隊の縄巻が少年院から送られてきた資料に目を通している。
「こないだの抗争で結構、削れたからね~。今回は多めに貰おうかなぁ。お兄さんとこは何人引っ張る~?」
「削れた分だけ補えばいい。5人だ」
「うっへぇ~、キョーレツ。それしか削れてないの?」
「ほんと強いよね」と笑っているが、巳部隊もそこまで削れてはいないはずだ。五十嵐は資料に目を通す2人を見て「隊長も大変そうだなぁ」と呑気な事を思った。
「......よし、じゃ行こうか。ある程度決まったし。お兄さんは?」
「本人を見て決める事にする。こんな紙切れの情報なんてアテにならん」
「...資料を作ってくれた人が大泣きしちゃうよ」
「ねぇ?」と話を振られた五十嵐は返事に困り、当たり障りなく愛想笑いをして誤魔化した。
縄巻の車で走る事、数分。その建物の大きさに、五十嵐は「えぇ、」と声を漏らした。
「こ、これが少年院...ですか?」
「そ。でっかいでしょ?日本各地から"矯正不可能"って判断された子たちが入ってンの。だからまぁ...半ば刑務所?」
「刑務所の方が可愛いだろ。ただの隔離施設だ」
「あー...そだね。その方がいいかも?」
そう言いながら笑って歩く2人の背中を見ながら、五十嵐は「強いなぁ...」と呟いた。
「いやぁ、わざわざありがとうございます」
院長を名乗る男性に案内された部屋は驚くほど豪華で、五十嵐はここが少年院である事を一瞬だけ忘れた。
本革のソファに座る縄巻たちは堂々と足を組んで座り、院長の話を「ふんふん」と適当な相槌で聞いている。五十嵐はその様子を緊張しながら見守り、時間が過ぎて行くのを待った。
「う~ん、じゃあ今回の子たちは巳と辰で......半分こ?」
「そうなるな」
「すみませんね。今回は他所からも声がかかっていますので...」
「構いませんよ。とりあえず減った分だけ貰いに来ただけですので」
はは、と縄巻が笑った。まるで物を貰いに来たような言い方をする縄巻にゾッとしながら、五十嵐は鳥肌がたった腕を擦った。
「今回は不作だったねぇ」
「仕方ないな。他の所も声をかけているとは思わなかったが」
「そうだねぇ......」
カツカツと踵を鳴らしながら、2人が歩く。五十嵐はその背中を見ながら、小さく息を吐いた。
「...このあとどっか行く?」
「......先に五十嵐を置いてからな」
「え?...あ、ごめん。忘れてた」
「あ、あはは......」
「次からは他の人と来たいな」と、五十嵐は手を合わせて謝る縄巻を見ながら思った。
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