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綺麗だね
「いつ死んでもいいように、身なりは常に整えておけ」と、先代が言っていた。
「......だからってそれ、今引く?」
「...喧しい。黙っていろ」
あれだけ「嫌だ」と言ったのに、結局手荒くされて化粧が落ちた。
化粧と言ってもアイラインだけだが、引くのに時間がかかったものを消されるのは悔しいものである。使い古した鏡を睨みながら、赤いラインを引いていく。
「......。」
何も言わずに、ベッドの上で煙草を吸う巳。何を考えているのか分からない目と、鏡越しに目が合った。
「...なんだ」
「ん~......?」
問いかければ気のないような返事をされ、少し苛立った。そんな俺の気を知らない巳はベッドから立ち上がると、後ろから抱き着いてきた。ほんの少しだけ手元がブレたが、失敗はしていない。
「......なんだ」
「......綺麗だなぁって、思って」
「...そうかよ」
そう思われているのなら、俺は今死んでも構わない。
少しだけ汗で滲んだラインに舌打ちをして、背後の男にキスをした。
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