月下

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月下

 満月を見上げる総長の後ろ姿を見ていると、不安で叫びだしたくなる。  満月の夜になると、総長は必ず外に出て全員を呼び出し、酒を飲む。月を見上げる総長の背中を見つめ、全員が無意識の内に呼吸を止めていた。 「......今日はいい月だな。皆もそう思わんか?」 「......。」 この質問には、どんな言葉も返してはいけない。 これは俺たちではなく、総長曰く"月の人"に言っているからだ。  月明かりに照らされた金髪が、キラキラと輝いて輪郭を失う。まるで月に吸い込まれていくかのように見えるその様子に、俺は「ふっ、」と息を呑んだ。 「...此度の抗争、誰も犠牲にはしない」 酒を一口飲んだ総長が、震える声でそう言った。 「オレより先に月へ帰る事は許さない。わかったか」 「......。」 そんな縋るような言葉にも、返事をしてはならないのだろうか。 いつまでも慣れないルールに戸惑いながら、俺は視線を泳がせた。
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